EIGHTY-FOUR マイペースとユアペースどっちが好かれる?

文字数 904文字

「あ。こんにちは」
「やあ。こんにちは」

 サラトちゃんのお兄さんと偶然再会した。

蓮見(はすみ)さんも入札ですか?」
「はい。お兄さんも?」
「ガクトです。僕はこの会社に勤めてるんですよ」

 名刺にはビルメンテナンス大手の社名と『クリーニング・ソリューション課長』という肩書が記されていた。

「課長さんなんですか」

 若いのに、と思ったけどもう一度よくガクトさんを見てみる。

 若い、のか?

「あの・・・お幾つなんですか?」

 無礼な質問だとは思ったけれども訊かずにはいられなかった。

「はは。やっぱり。私はね」

 右手の指3本と左手を、ぱっ、と広げた。

「35」
「えっ・・・」
「母親が、違うんですよ」

 ガクトさんのお母さんは小学生の頃に亡くなったそうだ。
 その後お父さんが再婚した今のお母さんの子供がサラトちゃんだという。

「お茶でも」

 いつもは社長が出る入札にたまたまやって来て偶然ガクトさんと再会できたのも縁なんだろう。

「いやあ、この間は失礼しました」
「いいえ、こちらこそ、おもてなしもできなくて」

 ガクトさんはアイスココアだった。

「ふう。これをゴクゴク飲むのが醍醐味なんだよねえ」
「あの。もうひとつお訊きしてもいいですか?」
「いいですよ」
「お家でもいつもそんなに悠然として
 おられるんですか?」
「なるほど」

 じっと見られた。

「マイペースだとお思いでしょう」
「・・・はい・・・」
「その通りです。私は自分勝手でセルフィッシュで自己中心的で俺サマ男子で自分に満足しています」

 ああ。よく分かった。
 この人の本当の姿は・・・

「自分に満足しておられるんですね」
「はい。満足し切ってます」

 ガクトさんはアイスココアをお代わりした。

「サラトは蓮見さんのことが好きなんですよね。家でもたまにあなたの話が出ますよ」
「えっ」
「どうすれば男の人に気にかけてもらえるんだろう、って」
「・・・そうなんですか」
「でも・・・縁美さんからあなたを奪うのは、極めて難しいでしょうね」
「あの・・・どうして?」
「縁美さんが素敵な女性だからですよ」

 マイペース。

「だから私が頑張りますよ。蓮見さんから縁美さんを奪えばサラトにもチャンスが出てきますから」

 ユアペース。

 妹思い。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み