TWENTY-TWO 一日の始まりはおはようか行って来ますか

文字数 1,084文字

「う・・・・・・ん」

 隣の布団で縁美(えんみ)が目を覚ました。
 僕が

をできないカラダだからということが理由ではなくふたりともそれぞれのおばあちゃんからこう聞いていたので一緒の布団では眠らない。

『吐く息で互いの気力が削がれてしまうから男女は別々の布団で寝にゃいかん』

「あ・・・・・おはよう、蓮見(はすみ)くん」
「うん。おはよう、縁美(えんみ)

 スマホのアラームが無くても僕らは毎朝大体同じ時刻に目を覚ます。僕が先に起きた時には、隣の布団で、すぅすぅ、と小さな息をしている縁美を見ながら早く起きないかなと待ち遠しく数分間を過ごす。

「今日のお味噌汁はワカメと豆腐だね」
「蓮見くんはワカメとじゃがいものが好きだよね」
「うん。味噌の味がしっかりする感じがして」

 ふたりでローテーブルに座り朝ご飯をいただく。ちなみに縁美は食事の時はいつも正座してる。

「正座の方が腰がラクだから」

 それが縁美の照れ隠しだってことは5年も一緒に暮らしてるので僕は分かっている。

 それに僕は正座してる縁美のフォルムがとても好きだ。
 背の高い彼女は脚も長くて折り曲げて重ねたふくらはぎと太腿が押しつぶされてぺたん、とする面積がそう大きくない。細くもあるから。
 正座すると余計に彼女の姿勢の良さが強調される。背筋がほんとに弓を逆にしたような形で反り返るぐらいに真っ直ぐに伸びている。

 あ、こういう表現もできるかな。

 ずっと前に美咲(みさき)さんがベトナムから来たウチの会社の研修生の女の子に日本列島の形をこんな風に説明してた。

『Shape of back of Dragon』

 ドラゴンの背中、っていう表現なんだろう。英語表現として合ってるのかどうか分からなかったけど確かに北海道を頭として日本海側を反り返ったドラゴンの背骨と捉えるとなんとも上手い説明だと思った。

「蓮見くん、遅刻するよ!」
「うん、分かったドラゴン」
「はい?」

 僕を凝視する縁美。そしてドラゴン怒りの咆哮。

「わたしってそんなに怖い!?」

 今朝の電車は特に混んでる。
 もうじき縁美が働いてるスーパーの駅だから僕らはいつもの通りにしようとした。

 でも。

「わわわわ」

 下車する人の波が雪崩のように停車して開いたドアめがけて流れていく。

「あ」

 という間もなく縁美は行ってしまった。

 縁美が降りた後は極端に電車はガラガラになる。僕が勤めるビルメンテナンスの会社はさびれた駅にあるから。

「今日は言えなかった・・・」

 不吉を感じるわけじゃないけどなんだか寂しい感じがする。

 でも。

 ヴッ。

 縁美からLINEだ。

縁見:蓮見くん、行って来ます

 ああ、よかった。

蓮見:行って来ます、縁美
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