SIXTY-SIX 好き?嫌い?どっち・・・?

文字数 1,032文字

「嫌い」
「えっ」
「嫌いだよ、蓮見(はすみ)なんか」

 夢で、よかった。

 夏休み最後の日に宿題が終わってない夢を大人になっても見るっていうあの感覚で僕は縁美(えんみ)から「嫌い」って言われる夢を時々見る。

 日曜の朝、隣の布団で縁美も目を覚ましたのでその話をしてみた。

「やましいことがあるんじゃないの?」

 はっ、とした。
 縁美の言うことが多分合ってる。

 サラトちゃんからバドミントンを続けるかどうかっていう相談を受けてふたりでファミレスに入ったのは、客観的に見れば浮気っぽいものだろう。

 言ってみた。

「人生相談っていうよりは恋愛相談だよね、それって」
「そうかな」
「そうだよ。バドミントンよりも蓮見くんと一緒に居たい、ってまるで告白だもん」
「そうかな・・・」
「布団干すよ」

 縁美が自分のじゃなく僕の布団を引っ張ってベランダに歩き出す。

 ごろん、とバランスを崩す僕。

「怒った?」
「別に」
「ほんとに?」
「あのね」

 縁美の布団を抱える僕に、縁美も僕の布団を抱えながら振り返って言った。

「そうやって誰かの相談とか人の話とかを無視せずに聴いてあげる蓮見くんが、わたしは好きなの」
「え」
「好きなの!蓮見くんが!」

 そのまま彼女はベランダのサンダルをつっかけて、勢いをつけたまま布団を手すりに掛けた。

 嬉しい。

 なんだかよくわからないけど、とてつもなく嬉しい。

「じゃああの時は嫌いだった?」
「もう、言わないで」

『嫌いだよ、蓮見なんか』

 このセリフは中学最後の時期に付き合い始めた僕たちにとっての最初の危機だった。
 理由は僕のひとこと。

『縁美って、身長何cm?』

 その問いに続けてすぐにあのセリフが出てきたわけじゃない。

『蓮見。正確な数字が必要?』
『いや。だって、気になるし。嫌じゃないかな、って思って』
『?何が?』
『背の低い男と並んで歩くのが』

 その後から縁美の声が段々大きくなった。

『じゃあ、蓮見は何cm?』
『えっ』
『ほら、訊かれるの嫌でしょ?』
『・・・低いから、嫌だよ』
『同じだよ、蓮見。わたしだって背の高い女と並んでて嫌じゃないかなって思ってるのに』
『・・・そんな風なら一緒に居られないね』

 縁美が、これまでで一番の低音ヴォイスでつぶやいた。

『嫌いだよ、蓮見なんか』

「蓮見くん、掛け布団も」
「うん」

 そのままベランダでふたりして山の稜線の辺りに視線を置いた。
 注ぐ日差しの反射加減が僕らは微かに違って見えるはず。

「人に好きって言わせた人は、自分も言わなきゃ」

 そうか。

「好きだよ、縁美」
「ありがとう」
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