197 恨みと赦しならどちら?

文字数 1,114文字

 絵プロ鵜に恨まれてしまった。
 僕が不用意なことをしてしまったために。

 今日の夕方のことだった。真直ちゃんが高校から迫田(さこた)さんの作業場に自転車で帰って来た時、彼女はとても弱っていた。

「どうしたの?」
「蓮見さん、あのね・・・・・」
「うん」
「やっぱりダメだ・・・・女の人じゃないと」
「どうしたの?悩み事?」
「うん・・・・」
「じゃあ、縁美にでも相談する?今日は早出だったからそろそろ帰ってると思うけど」
「えー。縁美さんは忙しい人だからなー。別の人がいい」
「じゃあ、絵プロ鵜?」
「絵プちゃんかー。まあ、いっかー」

 こんな時ですら不遜だけど、万が一深刻な内容だったらまずい。僕は絵プロ鵜を呼び出した。

 真直ちゃんが弱っていると聞いて絵プロ鵜は喜び勇んで駆けつけた。

「さあ、(それがし)にドーンと相談するさね!」

 そう言った後彼女は僕にこう囁いた。

「真直どのに意地悪するさね」
「ええ?」
「もちろん、ちゃんと相談には乗るさね。でも焦らすだけ焦らすさね。これまでの悪逆の限りの清算はしてもらうさね!」

 そうして絵プロ鵜がトイレに行ってる間に今度は真直ちゃんが僕に囁く。

「恥ずかしいから絵プちゃんとふたりにしてくれない?」
「分かった」

 僕は外に出て冷たい空気を吸い込んだ。

 静かだな。

「くぅーーー!」

 くぅーーー?

「そ、某は、某はあっ!」
「ひゃひゃひゃひゃ」

 絵プロ鵜が飛び出して来た。

「絵プロ鵜、どうしたの?」
「真直どのに某の秘密を知られたさね!」
「秘密って?」
「言えないさね!」

 そのまま絵プロ鵜は乗って来た原付にまたがって行ってしまった。

「真直ちゃん?何があったの?」
「ひゃひゃひゃ。絵プちゃんの好きな人、聞いちゃった!」

 え?

「な、なんでそんな話に・・・」
「片想いで悩んでるんだって泣きマネしたら自分も同じだからってあっさり。誰か知りたい?」
「いや、いい」
「じゃあヒントだけ伝えておくね」
「それもいいから!」
「ヒント。縁美さんの彼氏」
「・・・・・・やめなよ」

 僕は真直ちゃんを置き去りにして作業場に入った。黙って暗くなるまで作業を続けた。

「ただいま」
「蓮見くん、お帰りなさい・・・・・・・何かあったんだね」
「うん。絵プロ鵜が・・・・・僕のこと好きなんだって」

 縁美は一瞬だけ動きを止めて。

 そのまま笑い出した。

「ふふ。知ってるよそんなの」
「でも絵プロ鵜は真直ちゃんに騙されてすごいショック受けてた」
「だいじょうぶ。絵プロ鵜ちゃんは大人だから真直ちゃんをもう赦してるよ。もちろん蓮見くんのことも恨んでないよ」
「そうなの・・・・かな・・・」
「それより蓮見くん」

 縁美は口角を、くい、と引き上げた。

「真直ちゃんには困ったもんだね」

 眼が笑ってないんだけど。
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