258 雪女と雪男ならどっち?

文字数 1,109文字

三春(みはる)ちゃん。出るんだって。雪女」
「え〜?縁美(えんみ)さぁん。雪男って聞きましたよ〜」

 偶然電車で一緒になってアパートに帰って来た縁美と三春ちゃんが面白い話をしてたので僕も混ざってみた。

「都市伝説の類?」
蓮見(はすみ)せんぱぁい。ホンモノらしいですよ〜」

 今年の大雪の度に目撃情報が後を絶たないのだという。人影を見間違えただけだろうけど。

「蓮見くんにはロマンがないね」

 縁美にそう言われたら少し悲しい気持ちになったので暗くなってきたけど3人で出掛けた。

「一番目撃情報が多いのがバイパスの下の横断通路。トンネルみたいでしょ」
「ひとつ確認していい?」

 僕は言わば子供の頃からの疑問をふたりにぶつけてみた。

「雪女は『人』だよね?対して雪男は『動物』だよね?」
「さあ」
「さあ〜」

 UMAに興味があれば分かるだろうが、一般的な雪女は髪の長い女性。雪男は雪山に潜む猿人のような風貌。

 僕らの街は近年クマやらイノシシやらが街中にも出没する勢いになっててその見間違えかも・・・・

「あれ?」

 横断通路に着くと絵プロ鵜(えぷろう)が居た。

「何してるの?」
「蓮見どの、それはこっちのセリフさね。みんなこそ何してるかね?」

 絵プロ鵜は取材だった。

「漫画のネタになるの?」
「蓮見どの。ガセでも現地に足を運んで一次資料に当たるのが鉄則さね」

 僕らは隊列を組んで照度の低い通路内を進み始めた。

「は、蓮見どの、余り離れないで欲しいさね」
「あ〜、絵プロ鵜さぁん。あんまり蓮見せんぱいにくっつくと縁美さんに叱られますよ〜」
「わたしは特に」
「え、縁美どのももっとくっついて欲しいさね」

 団子状態で通路中央まで差し掛かった。

「しっ」

 通路の出口から暗い輪郭が近づいて来る。

「何あれ!?」
「人!?」

 そのシルエットは髪を振り乱している人間のように見えて。

「に、逃げるさね!」

 絵プロ鵜は元来た方へ反転してダッシュした。僕らも訳が分からないままに彼女の後に続く。

 背後からの高速走行者はそれこそ人間離れしたスピードのようでしかも足音がしない。

 代わりに、ジー!という周波数の高いノイズが襲って来る。

 次の瞬間。

「ひゃひゃひゃ!」

「「「「真直(まなお)ちゃん(どの)!?」」」」

 絶対に聞き間違えない笑い声に全員で叫んだ。

「この時間人通りが無いからインラインスケートの練習」

 真直ちゃんならこの程度は想定の範囲内なので、全員で安堵した。

「雪女も雪男も真直ちゃんを見間違えたんだね」

 縁美がそう言うと真直ちゃんが答えた。

「さっき見たよ」

 え。

「な、なにをかね・・・・」
「クマっぽい男と幽霊っぽい女」

 !

「そ、それはなんだったのかね!」
「だから。クマっぽい男と幽霊っぽい女」
「だからそれはなんなのかね!?」
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