154 放課後デートと大人デートならどっち?

文字数 1,040文字

 僕には心残りがある。

「サラトちゃん」
「なんですか?蓮見(はすみ)せんぱい」
「デートしたことある?」
「・・・・・・意外です」
「え。なにが?」
「蓮見せんぱいが中学生男子みたいな質問するなんて」
「セクハラだよね。ごめん。忘れて」
「いいえ。平気です。はい、デートしたことあります」
「そうなんだ」
「・・・・・・・・・ムッ」

 あ。怒らせた。

「せんぱいは?中学の時から縁美さんと放課後デートとかしてたんですか?」
「いや・・・・」
「えっ。じゃあ休みの日とか?」
「ううん。デートもせずに一緒に暮らし始めたから・・・最初のデートは社会人の初任給を出し合って」
「それってすごいですね」
「だから、サラトちゃんが羨ましい」
「えっと・・・・わたしの場合は・・・」
「出動だよっ!」

 美咲(みさき)さんの号令で我に返った。

 夕方、僕は縁美に電話した。

「縁美。今日ってノー残業デーでしょ」
『そうだけど・・・どうしたの?』
「待ち合わせしない?」

 それぞれの職場からバスで直行した。

 中学校前まで。

「ごめんね、遅くなって」
「僕こそごめん。急に呼び出して」
「行く?」
「うん」

 僕らは卒業して5年ぶりに中学校の正門に立った。でも学校には用はない。外周をそのまま歩いて敷地の裏に向かう。

 反り立つぐらいのコンクリートの階段が高くまで続いている。

「はっ、はっ、はっ」
「すごいね縁美。僕はそんなリズミカルに昇れないよ」
「はっ、はっ・・・これぐらい勢いつけないともう無理」
「中学の時に登ったことあるでしょ?」
「蓮見くん」

 僕の数段先を登っていた彼女が止まって振り返る。

「蓮見くんと登ってないってことは誰とも登ってないってことだよ」

 このコンクリートで法面が固められた崖みたいな『丘』は、僕らの中学の『聖地』だった。

 この丘で告白したカップルはずっと恋人でいられる。

「誰も追跡調査してないけどね」

 笑いながら言う縁美に促されて街を見下ろすと、夕日がもう濃い群青色に変わり始めてて、ビルの灯りがぼやけて見えた。

「告白ってなにすればいいのかな」
「とりあえず好き、って言ってそれから・・・・」

 彼女に促されるままに『付き合わない?』『はい』と言葉を交わし合った。

「蓮見せんぱい」
「なに?サラトちゃん」
「昨日のは嘘です。『恥ずかしいから一緒に来て』って友達から頼まれてその子の初デートにクラスの男の子とふたり付き添わされただけです。その男の子ともなんにもありません」
「そうなんだ」
「わたしがせんぱいとデートしてないってことは誰ともデートしてないってことです」

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