239 ランキングと転職ならどっち?
文字数 1,083文字
「今晩、サラトちゃんと会うよ」
「うん、分かった」
そしたら縁美は僕に気合を入れてくれた。
「サラトちゃんの門出、ブーストしてあげてね」
「
「あ・・・・・・」
「・・・?ああ・・・・・実はわたしまた背が伸びました」
危なかった。
『綺麗になったね』って言いそうになってしまった。
ここは、僕と
おばさんも相変わらず元気そうで嬉しい。
「ここの夜メニューもおいしいですね」
「ボリュームはランチより更に増し増しだしね」
サラトちゃんは本題に入った。
「女子シングルスの世界ランクに入りました」
「えっ!すごいね!」
「25位ですけど」
十分すごい。
だってあと24人しかいないんだ。
「それだけわたしが勝てたあの子がすごかったってことなんですけど」
「それで、スカウトを?」
「はい。会社の名前、知ってますか?」
知らない訳がない。
地方に本社がある海運会社でありながら一部上場の超優良企業。
東城トランスポート。
サラトちゃんはその女子バドミントン部にスカウトされた。
つまり、転職することになった。
「中卒での入社は創業以来初だそうです」
「おめでとう」
僕は訊かずにはいられなかった。
「日中は、業務も?」
「はい。寮に入って朝練をやった後に出勤して・・・業務終了後はまた練習です」
「部署は?」
「経理課に配属予定です。簿記の勉強やってます」
人生っていうのは、自分が道筋描いてやっていたこと以上に、猛スピードで展開したりもするんだな。
「せんぱい。でも」
「うん」
「今の会社の社長にはほんとうに申し訳ないって思ってます」
「そっか・・・三年間は勤務する約束だったもんね」
「はい。スカウトの話を受けた時に社長に相談したら、『是非行くべきだ!行かないんなら俺がサラトちゃんを解雇するよ!』って・・・・」
さすが、社長だな・・・・・・
「来月インドネシアに遠征です」
「じゃあ・・・・・形は違うけど、目的は果たせるね」
「はい。それで、社長が蓮見さんに伝えて欲しいって」
「?なに?」
なんだろ。
「
「え!」
「赤ちゃんも首がすわって、お姑さんが全面的に育児のサポートをしてくださるそうです。蓮見さんには今も済まないと思ってます、って。大工の仕事、頑張ってください、って」
「・・・・・・うん。わかりました、って社長に伝えて」
「はい」
僕は今こう思うんだ。
実は、誰か他の人の人生が動き出す時が、僕らの人生も動き出す時なんだろう、って。
それは、ほんとうのことだと思うんだ。