230 除雪と饒舌ならどっち?

文字数 1,112文字

 出勤不能。

 まさかバスまで止まるとは。

蓮見(はすみ)さん、俺も町内の除雪に駆り出されるから仕事になんねえ。今日は休業だ』

 迫田(さこた)さんから朝イチで連絡があった。

 どうしようもない。
 アパートの除雪は今朝住人総出でなんとかやって、縁美(えんみ)が仕事に出かけるのを見送った後はお正月に残ったお餅のアレンジメニューを試作してた。

「水に浸してレンジで煮て柚子と醤油で・・・これが一番シンプルで美味しいかな」

 あ。

 縁美からLINEだ。

縁美:蓮見くん!融雪が壊れちゃった!

 それは大変だ。

 縁美のスーパーの駐車場は融雪装置が老朽化してて井戸水を汲み上げるポンプの電源がとうとう漏電でブレーカーが完全に落ちてしまったらしい。

 なので、援軍に向かった。

「お母さーん、あのお兄ちゃんスコップ持って電車に乗ってるよー」
「しっ。きっと鉄道会社の人なのよ」

 違う。

「蓮見くん、本当にごめんね」
「いいよ。それよりどこをずらせばいい?」

 電車はかろうじて動いていたのでスコップ持参で縁美のスーパーに駆けつけた。社員さんやパートさんたちも備品の除雪道具じゃ足りなくてママさんダンプを持って来た人までいる。

「縁美ちゃんのダンナさーん、ご苦労さまでーす」

 ダンナ?

 違うけどまあいいか。

「うわー。中途半端に水が出ちゃってたんだな・・・」

 水を吸って重くなった雪を僕はスコップでずらす。

 僕が持ってきたのはプラスチックじゃなくてアルミ製のやつだから、既に踏み固められてしまっている塊を崩しなながらずらした。

「とりあえず車止めの後ろ辺りに積み上げて!」

 店長さんの指示で融雪のラインが廻らされている車後部のスペースにとりあえず積んでおけば、融雪が復旧した時にそのまま溶かせるから。

「重機が来たぞー!」

 地元の建設業者に店長が連絡してくれてて、一台のローダーが駐車スペースに入って来た。

 ただ、もう開店してしまってて除雪しながらお客さんの車も入って来てるから全面的にガーッ、と除けられないので人力での除雪も併用する。

「よーし!レジ人員と鮮魚部隊は店に復帰!それ以外は除雪続行!」

 店長さんは創業社長のお孫さんでまだ40歳少し手前だけど・・・なかなかにリーダーシップがあるね。

「すみませんねえ、蓮見さん」
「いいえ。こちらこそ縁美がいつもお世話になっております」

 店長さんから声をかけられて更に精が出た。

「お疲れさーん!ありがとうございまーす!」

 ポンプメーカーが来てくれて融雪が再稼働した。

「皆さん、あったかいのがいいですか?」

 縁美が除雪を終えた戦闘員(?)たちに訊く。

 僕らはコートやジャンパーをはだけて背中から湯気を上げながら答えた。

「縁美さん!冷た〜いコーラ!」
「はーい!」
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