ONE HUNDRED TWELVE 介護と被介護どっちが普通?

文字数 1,061文字

蓮見(はすみ)くん、意見を聞かせてほしくて」

 スーパーマーケットでの商品陳列についてだという。
 仕事モードの縁美(えんみ)の顔が僕は結構好きだ。

 今ふたりがいるのは僕らの街の丘の上だけど。
 日曜朝の散歩で休日モードの僕らだけど。

「『介護食』って書いた陳列コーナーがあるんだけど・・・ちょっとわたし自身違和感があって」
「ふうん。たとえば何が置いてあるの?」
「レトルトの介護食。パックのご飯。お餅」
「?パックのご飯はなんとなく分かるけどレトルトの介護食って具体的に何?あと、お餅?」
「ごめんね、色々飛ばして。離乳食って蓮見くんはイメージできる?」
「赤ちゃんの?・・・なんとなくだけど、すり潰したおかず、かな」
「介護食も『噛みやすい』っていうのをベースにメニューがいくつもあって。具がごろっとしてない肉じゃがとかシチューとか。で、量も少なめで」
「ふうん。そもそも商品が『介護食』って分類なの?」
「うん。大手の食品メーカーが種類もいっぱい出してて。名も無き料理も」
「あ・・・・・・僕らの得意なやつ?」
「そう」

 筑前煮だとかきんぴらだとか甘煮だとか、きちんとした命名のできるメニューじゃなく、残っている調理済みの作り置き惣菜を食べ切るために更に別の食材と合わせて再調理するなどの分類不能のメニューを僕らは『名も無き料理』って呼んでる。

 大体納得した僕はもうひとつの疑問を訊いた。

「それで、お餅って?」
「パックのご飯と同じで切り餅が小袋に一個ずつ入っててレンジで温めるだけで膨らんで食べられるから」

 ここでようやく話が始められた。

「縁美が僕に訊きたいのってどうやったら売上が上がる陳列にできるかってこと?」
「ううん、違うよ」
「えっ」
「どっちが買うって設定にすればいいのかな、って思って」
「どっち?」
「介護する側とされる側と」

 ああ。
 ほんとだ。

「僕のイメージでいい?」
「うん。もちろん」
「『介護する側』だろうね」
「やっぱり・・・介護する側の負担を考えてあげよう、って意味だよね、蓮見くん」
「ううん、違うよ」
「えっ」

 言っていいかな。
 縁美に嫌われないかな。

 でも、言わない方が卑怯だよね。

「介護される側には『介護』っていう文字は見せない方がいい」
「それって・・・誰のこと?」
「・・・・・・もし僕が年取って病気して寝たきりになって。その時にもし縁美が隣に居てくれたとして・・・・・・オムツを替えて貰ったとしても『介護』って思いたくない。『縁美、そこのTシャツ取って』『はい、蓮見くん』なんて今みたいでいたい」

 泣かせてしまった。

 僕は、わがままなのかな。
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