130 500円と5,000円ならどっち?

文字数 1,075文字

 縁美(えんみ)のスーパーはフルセルフレジはまだだが支払いのみセルフの機械を導入している。
 店備え付けの買い物カゴに商品を入れて有人のレジへ持っていって、エコバッグを一緒に出せばバーコードを通しながらそれに商品を詰めて貰いお客はセルフの支払い機でポイントカードの読み取りやクレジットカードや現金での支払いを行う。

 そんな時にこんなお客が居たらしい。

「あのね、蓮見(はすみ)くん。お釣りを千円札じゃなくて500円玉で欲しいって言うんだよ。基本両替には応じてないからご容赦ください、ってお願いしたんだけどね」
「ふうん。なんで500円玉が欲しかったんだろ」
「気になるでしょ?」
「うん気になる」
「当てて見て」
「えっ」

 普段はこういうじゃれ合いを自ら好まない縁美だけど、言い方がとてもかわいかったので僕も乗っかった。

「ええと。1回500円のクレーンゲームを何回もやるつもりだった」
「おっ。いきなり近い答えだね。でもハズレ」
「うーん。ゲームじゃなくて自販機で何か買うつもりだった。ほら、たまにおでんの自販機とかインスタントじゃないうどんが出てくる自販機とかあるじゃない」
「残念。ハズレ」
「ヒントは?」
「買う、んじゃないんだよね」
「買うんじゃない?」

 お金をものを買う以外にどうするかと言えばファンドなんかの投資とかか?

 全く自由な状態で考えてみる。

 買うんじゃないなら『売る』っていうのはどうだ?

 たとえばマイナスの価値しかないもののマイナス部分が比較的少額の場合、500円玉一枚で価値の棄損をある程度補って、その上で売るのならどうだろうか。


 僕は高らかに言った。

「ジャンク家電を売る時の補填金!」
「違います!」

 僕の予測不能の回答に若干縁美も恐怖を抱いたらしい。
 かなりのヒントを出して来た。

「四角い大きな木だったり鉄だったりする箱の中に入れます」

 貯金箱?
 なんて素人みたいな回答を一瞬だけ脳に浮かべてすぐにFade Outしたよ。

「縁美。正解言っていい?」
「誰も止めてないよ」
「ふふふふ。もうひとつヒントを」
「がくっ」

 そう言って縁美は決定的なヒントを出した。

「箱に『投げ入れ』ます!」
「ああっ!」

 僕はアパートの壁の薄さを気にせず大きく言ってから自制した。

「お賽銭だ!」
「2割正解」
「2割?」
ご縁(ごえん)と5円をかけてるの」
「ごめん。縁美、教えて。5円玉じゃなくて500円玉を?」
「うんそう。5円でも50円でもなく500円玉を。でもここからが凄いんだよ、蓮見くん」

 なんだろ。

「500円の両替が無理だって分かったら1万円札5枚出してね。5,000円札10枚にできませんか?だって」
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