200 200話と2,000話ならどっち?

文字数 1,094文字

 一話完結の毎日を。

 僕はほんとにそう願ってて、そうして縁美(えんみ)との5年間を暮らしてきた。

蓮見(はすみ)くん。5年って約2000日だよね?」
「大雑把に区切るとね」
「わたしとの日々、お疲れ様でした」
「ええ?」

 何の記念日ってわけでもないんだけどなんとなく夜はふたりで外食した。

 特別な日のつもりでもなんでもなかったけどどうしてか日本そば屋さんに入った。

「縁美。渋いね、そば屋なんて」
「そう?おそばはやっぱりおいしいから」

 天ぷらの盛り合わせと、それからもりそばを二枚取ってふたりで食べ始める。話題はなんとなく仕事のことに。

「スーパーの仕事はもちろん懸案の事項もあって、寝て起きても気にかかることはあるけど・・・でも概ね毎日閉店したらそれでその日の区切りみたいな感じなんだよね。蓮見くんは?」
「そうだね。一日でエクステリアが完成しないこともあるけど、瞬間瞬間の『創作』っていうか『工程』っていうか・・・そういうのに打ち込んで夜には一区切りかな。ただ・・・・」
「うん」
迫田(さこた)さんは経営者だから、きっとずうっと人に言えないような重圧の中で暮らしてると思うな。前の会社の社長もそうだったし」
「一話完結の毎日を」
「えっ」
「蓮見くんもわたしもどちらかっていうとそれに近い仕事に恵まれてるよね、多分」
「そうかもね」
「でも、結婚して養子を迎えたら・・・多分一日の内で区切りをつけてすっきりできないことも増えてくるだろうね」
「・・・・・・・大丈夫だよ」
「え?」
「縁美と僕なら大丈夫。だってそうやって約2000日間、ふたりで毎日をきちんと区切りをつけてきたんだから」
「ふふ。訓練できてる、ってこと?」
「だから僕らの子供にも夜は一日を感謝しながら安らかに眠りに就いて朝はワクワクする今日を思って目覚めるようにしてあげたい」

 どうしてだか縁美は涙ぐんだ。

 そういう僕自身も言ってて思わず泣きたくなるぐらいの気持ちだった。

 憧れるんだ。

 一話完結の毎日を終え、そして次の一話を迎えたい。

 食べ終わると蕎麦湯を出してもらった。とろりとした白い湯がつゆと混じり合うと色もまろやかだし、味もなんとも滋味深い。

 眠れない夜だってあったさ。

 僕が哀しさや辛さで夜中に眼が覚めて横に寝ている縁美の手をそっと握ると・・・彼女も起きているのか無意識なのか、手をきゅっ、と握り返してくれた。

 しっかりしている縁美だって、夜に静かに泣いている時があって。

 僕は縁美を抱えるようにしてそっと抱いて、背中をとんとんしてあげたこともあった。

 悩みは尽きないとしても。

 それでも一話完結の日々を。

「蓮見くん。これからもよろしくね」
「僕のほうこそ、よろしく」
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