SIXTY 男と女、愛するならどっち?

文字数 1,095文字

 僕はたまにこんな妄想をする。

 縁美(えんみ)がもしも男だったら。

蓮見(はすみ)くん、一週間お疲れ様」
「うん。お疲れ様」
「かんぱい」

 今日は珍しくハイボール。

 縁美が以前スーパーで貰ってきた炭酸水を作る機械があるので、氷にシングル(どうやら指一本分の高さのお酒を注ぐという意味らしい?)でやっぱりスーパーで現物支給の賞与として貰ってきたウイスキーを注ぎ、作ったばかりの炭酸水を被せ、マドラーでひとまわし。

「縁美」
「なに?蓮見くん」
「横顔がかっこいい」
「?・・・ありがとう?」

 僕だけの嗜好と捉えないで欲しい。

『好き』の究極は、想う異性その人になり切ること。

 相手と性を入れ替えて愛してもらうこと。

「縁美。もし生まれ変わるとしたら男もいいんじゃない?」
「?それは、わたしが女子として背が高いから?」
「それもあるけど・・・」

 僕は、縁美に生まれ変わりたい。

 縁美には僕に生まれ変わって欲しい。

 そして、僕は、縁美として僕として生まれ変わった縁美を愛したい。

「蓮見くん・・・・・・酔ってる?」
「酔ってない」

 僕は、ぐっと顔を近づけた。

「・・・キス、するの?」
「そうじゃない」

 がたっ、とテーブルを立ち、僕は衣装ケースから今の会社の就職活動の時だけ使っていたネクタイを手に持って戻ってきた。

 濃いブルーと濃い赤のチェックが斜めに施されたネクタイ。
 白地にブルーの細いストライプの入った縁美のブラウスの襟首にネクタイをまわし、ゆるく着けてあげる。

「・・・かっこいい・・・」
「やっぱり酔ってる」
「酔ってない」

 そのまま、僕は縁美を軽く抱き寄せた。

 いいや、僕が縁美の胸に顔を預けるような形になった。

 縁美はそっと僕の頭の後ろ辺りからうなじを撫でてくれる。

「変な蓮見くん」
「変じゃない」

 でも、口にしたら変だと思われるだろう。

 僕はキミになりたい。

 キミになって僕を愛したい。

 僕の姿になったキミに愛されたい。

 僕の姿でなく、キミの姿のまま男になったキミでもいい。

「蓮見くん、布団に入りなよ」

 心なしか、男言葉っぽい縁美。

「うん。そうする」

 やっぱり酔ってたんだな。
 僕は、眠った。

 夜中に目が覚めた。
 喉が渇いたので台所のシンクで水を飲んだ。

 並んだ布団の片方に、縁美が眠ってる。

 眠ってて、髪がアップになってる。
 おでこ、結構広かったんだね。

 眠ってるその重力で上がってる髪とおでこが、やっぱり男っぽく見える。

 完全に一致するわけじゃないけど、こういう感覚に近い歌を僕は思い出す。

 プリンスの、If I was your girlfriend.

 歌わずに、頭の中でメロディーだけ流してみた。
 縁美の寝顔を見つめながら。
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