EIGHTY-NINE 孝と不孝と僕らはどちら?
文字数 1,103文字
「急ごう」
「うん。
「うん」
最初に縁美の実家のお墓に。
「大丈夫。まだ誰もいないよ」
お盆の間、普通ならば早朝から墓参する人たちがいるはずなんだけど、共同墓地の駐車場が工事中で夜間から早朝にかけて入場が規制されている。だから僕と縁美は自転車で速やかに移動してローソクを灯して線香を立て、しゃがんでお参りした。
花は供えない。
僕らが来たことが分かってしまうから。
だからローソクと線香も水で火を消して回収した。
「問題は蓮見くんのご実家のお墓だね」
「うん・・・・・」
自転車で更に移動すると涼しい内に参ろうと考えるタイプのひとたちがもうやって来ていた。
「そうっとね」
「うん」
別に抜き足差し足で参ったって隠れられる訳じゃない。
けれどもそうやって毎年遭遇を避けてきた。でもどうしてだか今年は今までとは違う感覚がつきまとって仕方がなかった。
「蓮見くん・・・一旦戻った方がいいんじゃ・・・」
「でも、縁美は今日の午前中しか時間取れないでしょ?」
「そうだけど・・・もし何だったら蓮見くんだけで改めて来て貰った方が・・・」
「ダメだよ。ずうっと5年間、ふたりで来てたんだから」
「でも・・・」
「おい。何してんだ」
いい予感ていうのは大抵外れるかそもそも湧いてこない。
でも、悪い予感はほぼ的中する、っていうことを身をもって証明できた。
「父さん・・・」
「何してるんだ。
よその家の
墓に」「お父さま・・・」
「誰がアンタの父親だ」
「・・・すみません」
「そういう言い方はないだろ」
「ならば喋らないでおこう。お互いに」
「父さんたちにそんなこと言う資格が」
「あるわよ」
「母さん・・・」
「その女にはわたしたちは何を言ってもいいはずよ?違う?」
僕は怒鳴りつけたかった。
でも、そうしたら、もっと負けてしまう。
「・・・姉さんたちはどうしてんだよ」
「関係ないでしょ」
「母さん。逃げないでよ。この墓だって僕と縁美で除草したんだ。姉さんと
「あなたにはそれを言う資格もないでしょ」
「資格はなくても事実がそうじゃないか」
「おい」
「はい」
「お前は長男だがこの墓には入れない。赤の他人だ。赤の他人と一緒に居る女も他人だ。帰れ」
「・・・・・・」
「帰れ」
帰り道、僕と縁美は自転車に乗れなかった。
最高気温を更新するだろうアスファルトの道を引きずるみたいにして歩いた。
「縁美・・・ごめん」
「ううん。わたしが悪いの」
もう一回、言った。
「ごめんね、縁美」
「ううん」
彼女は表情の自由すら奪われた。
「わたしが悪いの」