EIGHTY-EIGHT お化けとユーレイこわいのどっち?

文字数 1,239文字

 僕らの街にお化け屋敷ができた。

 来た。

 美咲(みさき)さんから順番に麗しく譲り合う。

絵プロ鵜(えぷろう)ちゃん、どうぞお先に」
「いやいや。ここはひとつ若さでサラトどのが先陣を」
「根性のある縁美(えんみ)さんが」

 そして縁美が僕に言った。

蓮見(はすみ)くん・・・男でしょっ!」

 僕らの街のさびれたシャッター商店街。
 その中の昨年倒産した仏具店の三階建てビルを利用してプロデュースされたお化け屋敷。

 真夏の炎天下だけれども、静けさが雰囲気を演出する。

 僕が先頭で乗り込んだ。

「美咲さん。どうしてお盆休みにお化け屋敷に」
「サラトちゃん。プロデュースは街づくり法人の若手なのよ。ウチの会社の受注上のつきあい、ってわけ」
「小学生しかいませんねえ」

 ところがその小学生たちが僕らを戦慄させた。

『うぎゃあぁぁぁ・・・・』

「なに、今の子供の悲鳴?」
「なんか、マジっぽかったですね」

『うわぁぁん!やだっ!やだっ・・・』

「・・・あのさ。さっきから悲鳴がフェイドアウトしてってるよね」
「うむ。良いところに気がついたな、蓮見どの」
「取り殺されてたりして」

 縁美のひとことで僕らは密着した。

「暑い暑い暑い!」
「でも怖い怖い怖い!」
「ちょっと!電車ごっこじゃないんですから!」

 美咲さんが先頭の僕をぐいっと前に押し出す。
 サラトちゃんが、すすす、と前へ出てきて僕の背中に回りTシャツの裾を握った。

「わたしが二両目でいいですか」

 すかさず縁美が号令をかけた。

「二列縦隊!」

 確かに先頭としんがりの怖さを考えたら横並びが平等だろう。僕らはそのまま階段を登り、二階、三階へと進んだ。

「元・仏具店だけあって本物の仏壇とか位牌とか置いてあるけど・・・お化けもユーレイも出てこないじゃない」
「まあ、お化け役を雇う人件費もバカになんないでしょうからねえ」
「ではあのガキんちょどもの悲鳴は何だったのでござろうか」

 折り返しは地獄を表現したエリアのようだ。いわゆる地獄絵図の掛け軸が吊るされていてものすごくリアルで。

「リアルと言うが蓮見どの」
「なに?絵プロ鵜」
「蓮見どのはホンモノの地獄を観たことがござるのか?」
「ないよ」
「では、どうリアルなのでござるか」

 そうだな。

「血の鮮やかさとか。炎の熱感とか」
「蓮見どのはセンスありだな」

 絵プロ鵜が力説した。

(それがし)も恐れ慄くほどに感激しておったのだ。この地獄はホンモノだと。某が観た『原爆投下後の広島・長崎』の焦土と同じ恐ろしさだと」
「じゃあ・・・小学生たちはこの掛け軸を怖がってた?」
「おそらくは」

 僕らは絵プロ鵜のプロの漫画家としてのシリアスな語り口に納得した。

 が。

「なんだこれ」
「天使?」

 出口にガラスケースに入った白い陶器でできた幼児の人形が置かれていた。裸で、小さな突起が股のあたりにある。男の子だ。

 手前に赤いボタンがある。

 つい、押した。

「え?」

 ブシュウゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!!

「うわうわうわうわ!」
「いやーっ!かかるーっ!!」
「びっくりしたびっくりしたびっくりしたあああっっっ!!!」

 これか。
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