275 初夜と終夜なら・・・って、徹夜もアリか!

文字数 1,112文字

 卒業式の大百足(おおむかで)用『ボード』作成作業も順調に進んで昨日の夕方に全品完成。後はモンキー・レンチくんたち工業科の検品作業のみとなったんだけど・・・

「は、蓮見(はすみ)さん!」
「レンチくん、どうしたの?」
「風で電車が止まってしまって!」

 この時期、春一番と呼ばれる大風が吹いて、ローカル線が運転を見合わせることが時折ある。夕べから台風みたいな風が終夜吹いてたからそんな気はしていた。

「電車通学の人、結構いるんだ?」
「学科の半分が実はそうで」
「検品は昨日からもう始めてるよね?後どのくらい?」
「蓮見さん」
「はい」
「蓮見さんが

分だけです。後は全部終わってます」

 ならば・・・・すべて僕の責任だな。

「蓮見さん。出て来れてる生徒だけでやりましょうか」
「・・・・・・・・」
「不可抗力ですから、みんな納得してくれると思いますよ」
「もし本当にそれをやるとしたら、下校時刻までに終わらないでしょ?」
「映画とかアニメならそういうのがドラマになりますよ?」

 僕もそう思う。

 要素を洗い出す。

・作業スペースを借りている製材所の夜間警備をどうするか
・翌日のデリバリーのタイムリミット
・未成年者である生徒たちに深夜作業をさせることの親の同意

「おカネで解決しよう」
「えっ」

 本当に申し訳ないけど、僕は生徒たちに有無を言わせなかった。

「専務、急ぎの仕事をお願いしたいのですが」
「分かりましたよ。社員を2人検品の仕事に回します。ただ、割増料金での受注になりますよ」
「はい。お願いします」

 残りのボードの検品を、製材所にお願いした。
 隣で工業科の生徒たち15人も検品作業を平行してやっているんだけど。

「終わりっすー」

『プロ』である製材所の社員さん2人が軽くそう言った。作業開始から一時間しか経っていない。
 大げさでなく、生徒たちの10倍のスピードだろう。
 しかも、一切の手抜きは無く、生徒たちがやっている途中のボードも引き受けて貰った。専務が情け容赦無く生徒たちに告げる。

「商売だからね」

 ロボットコンテストで一年生ながら全国優勝を果たしたレンチくんたちは茫然自失と言った感じだったけど、専務はこうも付け足してくれた。

「卒業まで後二年。ウチは三年生のインターンを受け入れたりもしてるが、君たちの先輩はもう即戦力レベルに達してるよ」
「はい・・・肝に銘じます」

 当然ながら、僕のミスだ。不可抗力だろうがなんだろうが、追加費用は『エクステリアの迫田(さこた)』として負担した。

「そっか・・・・・大変だったんだね」

 アパートで布団に入り、今日の出来事を縁美(えんみ)に報告した。

「でもこれでぐっすり眠れるね」
「ううん・・・・・・徹夜してしまうかも」
「えっ」
「明日が楽しみでワクワクして眠れない」

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