ONE HUNDRED THIRTEEN ポジティブとネガティブならどちら?

文字数 882文字

 あるひとつの光景が、ぱっ、と浮かぶことがあると、それをデジャヴのように捉えてまるで夢占いみたいに語り合う。

 日曜夜、布団の中での僕と縁美(えんみ)のひととき。

「蜘蛛が水面に落ちた映像なんだ」
蓮見(はすみ)くん。動画?それとも止まってるの?」
「動画」
「いつ見たの?」
「今朝。ふたりで散歩した丘から降りてきて川縁のおじぞうさまにお参りした時」
「ふうん・・・文学的だね、なんか。小説のワンシーンとか?」
「ごめん。僕、いわゆる文豪の小説ってあまり読んでなくて」
「あ。ごめんね。わたしも蜘蛛って有名な小説で使われてるイメージがあって。でも、蜘蛛か・・・朝蜘蛛はよくて夜蜘蛛は縁起が悪いとか言うよね・・・どっち?」
「曇ってる感じだけど昼間の映像」
「ふっ」
「なに」
「だって、クモってる、って」
「怒るよ」
「ごめんごめん。落ちたあとその蜘蛛はどうしてるの?」
「ほんとうにフラッシュみたいに消えたから。でも、泳いでた。ぱっ、ってアメンボみたいだって即座に思ったから」
「ふうん・・・・・蜘蛛ってホラーっぽいイメージだよね」
「うん」
「でも余りにも有名な小説だと救いの存在だよね」
「うん」

 そこで一旦やりとりが途切れて僕と縁美は液晶テレビの前でうつ伏せで肘をついて顎を支え、日曜の夜に放映されている映画を上映する番組のその小作品をエンディングまで観た。

「よかったね、蓮見くん」
「うん。演出も抑えてて盛り上がりはそこまでないけど・・・・・最後に女の子と叔母さんが家の中に並んで入っていくシーンが、切ないのに温かい」
「ハート・ウォーミングってこういう映画のことだよね」
「うん」

 僕はもう一度繰り返した。

「僕もそう思う」
「・・・・・・・・ね。蓮見くん」
「なに」
「さっきの蜘蛛が、もしわたしだったらどうする?」
「え」

 蜘蛛が、縁美。

「多分、掌を縁美の下に差し入れると思う」
「でも、虫だよ?虫にとったらちょっとの波も津波みたいだと思うよ?」
「じゃあ・・・・・・糸を垂らす」
「糸なんかないよ」
「着ている服の繊維をほどく」
「風で糸は揺れるよ。わたしには届かないよ」
「じゃあ、僕も水たまりで溺れる」
「馬鹿だね、蓮見くんは」
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