NINETEEN カラオケならデュエットとソロのどっち?

文字数 1,270文字

 僕も縁美(えんみ)もカラオケは苦手だ。でも決して歌が嫌いな訳じゃない。

 スポットライトを浴びることを極端に避けたいのだ。

「ふたりカラオケなんて久しぶりだね、蓮見(はすみ)くん」
「うん。金曜日だからやっぱり混んでるね」
「何飲む?」
「メロンソーダ」
「じゃあわたしはアイスコーヒー」

 スタッフが飲み物を運んできて部屋から出ていくまで僕と縁美は決してマイクを握らない。

「行ったよ」
「うん。じゃあ、曲、選ぼうか」

 ふたりで歌うのすら恥ずかしいのに他の人の前で歌声を発するのはハードルが高過ぎるんだ。

「じゃあ、どうぞ」
「いえいえ蓮見くんこそどうぞ」
「何をおっしゃる縁美がお先に」
「「どうぞどうぞ」」

 コントみたいなやりとりの結果、一曲目はいきなりデュエットにした。
 そもそもデュエット曲もふたりは知らないので僕が気にかかっている曲を探してみた。

「あ・・・あった」

 まさかあるとは思わなかった。
 ジョン・クーガー・メレンキャンプとリッキー・リー・ジョーンズの『Between Laugh and Tear』
 ネット動画で流行っていた日本のバンドを見ていたら「アナタにおすすめの曲」として出て来たのがアメリカのロックン・ローラーのこの切ない曲だった。

「歌えるかな」
「曲名がすごくいいね。蓮見くん、歌お?」

 前奏のギターと静かなドラムの音が鳴り出すと、ふたりきりなのにとても緊張した。

 まずは男声、つまりジョン・クーガーのパート。僕は最初何秒かを歌い出せずに、英語の字幕を目で追って、やっと歌い出すともう縁美のパートになった。

 リッキー・リー・ジョーンズのハスキーなパートを、縁美は地声の低音ヴォイスなのに繊細な美しい声で歌った。

 僕も縁美も決して英語の発音は上手くないけど、ちょっと涙ぐむくらいの切ない曲を歌い切った。

「では蓮見くん。そろそろソロにしましょう」
「ダジャレ?」
「もう!」

 かわいいなあ。5年経ってもほんとに初々しいよ。

 縁美が選曲したのは荒井由美の『翳りゆく部屋』
 静かな恋の破局の歌だ。

 正直渋すぎて僕には分からない。

「じゃあ、次、蓮見くん」

 歌い終わって照れ隠しのためか間髪入れずに僕に促す縁美。
 僕もやっぱりネットで知った古い曲を歌う。

 縁美は覚えてるわけ、ないだろうな・・・

「あ、蓮見くん!『ギザギザハートの子守唄』だね!」
「あれ?チェッカーズ、知ってるの?」
「知ってるも何も、修学旅行の罰ゲームで男子三人で歌ってたじゃない」

 あ!
 覚えてたんだ!

 歌い終わってから縁美に再度聞いてみた。

「そもそも僕のことなんて中学の頃は存在すら知らないものと思ってた」
「蓮見くん、あのね」
「?」
「わたし、ほんとはね。蓮見くんがチェッカーズ歌った時からずっと狙ってたんだ」
「えっ!」

 僕の驚きをかき消すように縁美がはしゃいで曲を入れた。

「蓮見くん、歌お!ゴダイゴの『The Galaxy Express 999』!」

 これも僕らの世代のずっと前の曲。
 素晴らしい名曲だ。

 疾走するような演奏に合わせて僕らも笑顔で歌う。

 まるで僕と縁美じゃないみたいに、盛り上がったさ!
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