221 年の瀬は酒盛り?通常ごはん?どっち!?

文字数 1,110文字

 仕事が尽きない。

 個人事業主の大工である迫田(さこた)さんと僕にしたら非常にありがたいことではあるんだけれど。

蓮見(はすみ)さん、悪いねぇ。こんな押し迫るまで仕事仕事で」
「いいえ。自営業者は稼げる内に稼がないと、ですよね?」
「確かにそうだね」

 僕は迫田さんとの仕事が楽しい。
 職人で「住」は暮らす人の安全にも責任があるからもちろん仕事には厳しいんだけど、とても納得できる厳しさなんだ。

縁美(えんみ)ちゃーん!レジのヘルプに入って!」
「はーい」

 ふう・・・
 蓮見くんもお客さんの所で作業中かな。

 お互い、人の働いてない時に働く仕事だもんね。

 スーパーなんてその最たるもので。
 でも、こうして年の瀬におせちの材料を買っていく人や、オードブルとお酒を買ったり、小さな子供がおばあちゃんの買い物を手伝ってるのを見ると・・・

 これがほんとうの『暮らし』なんだって実感するな・・・・

「蓮見さんよ。今日はこれで上がろうか」
「はい」
「どうだい?たまには一杯?」

 迫田さんが杯を、くい、と傾けるジェスチャーをする。
 こういう大人となら僕はほんとうはお酒を共にしたいんだけど・・・・

「すみません。晩御飯を作らないといけないので」
「そうだよねぇ・・・偉いよ、蓮見さんも縁美さんも」
「すみません」
「いや、それがほんとうの『暮らし』さ。俺も久しぶりに女房と熱燗でも飲むかな」

 なんか、いいな・・・・・
 そう思った瞬間だった。

「おじいちゃん!わたしもわたしも!」

 真直(まなお)ちゃん!?

「高校生に飲ませられるか!」
「あれ?おじいちゃーん。学生の頃、獅子舞やった打ち上げで青年会の先輩にしこたま飲まされたって言ってなかったぁ?」
「な、何十年も前の話だ。そ、それにその頃はもう成人しとった・・・・・・・・・はずだ」
「へえ。じゃあいいや。蓮見さーん、飲ませて飲ませて?」
「ま、真直ちゃん・・・まさか大晦日にウチのアパートに顔出すなんて言ってたのは・・・・・」
「違う違う。大晦日は大晦日でそれはそれとして。わたしは今まさしく今晩のことを言ってるのさー」
「と、とにかく真直。高校生の分際で酒など許さん!」
「けちー」

 真直ちゃんは仮に大人になってもお酒を飲むような印象じゃなかったけど・・・どういうつもりなんだろう?

「わたしの好きな人が酒蔵の子供なのさー」
「?真直ちゃんの好きな人?」

まさか、片想いの相手?

 でも僕は真直ちゃん本人に真偽を正す愚行などしない。迫田さんに裏を取る。

「迫田さん、ほんとなんですか?」
「俺の女房だ・・・・・」
「?」
「真直!酒蔵の子供はお前のばあちゃんだろうが!」
「ひゃひゃひゃ!」

 そうか、迫田さんの奥さんは酒蔵からお嫁に・・・・
 なら、真直ちゃんは筋金入りだ・・・
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