273 労働の日々と休息の日々なら・・・交互がいいよねっ!

文字数 1,042文字

「引けえっ!力の限り引けーっ!根性を見せてみろーっ!」

 何かの映画で観たようなセリフを男子たちが言ってるけど、僕は製材所の専務に訊いてみた。

「モノになりそうですか」
「男子はへっぴり腰だなあ・・・女子は筋がいいですね」

 卒業式のイベントに使うためにプレカットして貰った大百足(おおむかで)レース用のスキー板のもっと長いような木の板を更に形を整えるため手作業でカットして一車(いっしゃ)5人の靴を留める金具を取り付けていく。

 専務には大変申し訳ないのだけれど、製材所のスペースを借りて生徒たちの作業をさせて貰ってるんだ。

蓮見(はすみ)さーん。各科の一年生全員投入する必要ある?」
真直(まなお)ちゃん。それでもギリギリだと思う。期末考査が終わって短縮授業だから参加できる人が結構いてくれて助かってるけど」
「数が合わない」

 うっ。

 さすがソロバン(算盤)ちゃん!

「あ、合わないことないよ・・・あっ!コテン(古典)ちゃん、普通科なのに手際いいね!」
「偏見厳禁」

 あぶなかった・・・コテンちゃんが目に入ったから無理矢理話を逸らせたけど。

「完成品の検査は絶対した方がいいですよ」

 そうなんだ。専務のおっしゃる通りなんだ。

『重戦車』という表現があった通り、大百足の一車一車は5人の脚力をボードで連動させたパワーがそのまま推進力に置き換えられる驀進するマシンだ。

 万が一にも不良品があったら、怪我・・・いいや、命に関わる。

「検査は鉄則ですよ」

 モンキー・レンチくんは検査作業工程は工業科の生徒が中心となって行う旨段取りしてくれた。

「俺、授業で『工場に於ける巻き込み事故』の動画を何度も観たんですよ。指を切断したり、中には不幸にも命を落とされた方もいる。検査徹底・安全管理は職業としてこの道を選ぶ俺たちの『義務』です」

 重い言葉だ。

 でも、その重さは、その先にある楽しき瞬間を待ち望む想いでもある。

「よーし、じゃあ今日はこれで上がり!お疲れさん!」
「ウース!」

 はは。
 女子まで『ウース!』だって。

 そしてここ最近、僕も縁美(えんみ)もアパートでの夕食のテーブルは互いの仕事の話題で持ちきりだ。

「卒業式まで大変だね、蓮見くん」
「うん。でも『迫田(さこた)組』って感じでなんか楽しいよ。縁美もスーパー繁盛でよかったね。忙しいだろうけど」
「うん。ありがたいことにお(うち)でご飯を作る人が増えてきてるみたいで・・・ねえ、蓮見くん」
「なに」
「『楽しき我が家』って、なんかいいよね」

 そう。

 10人でも、5人でも、ふたりでも・・・たとえ、ひとりだったとしても・・・・・・

 楽しくて温かな我が家を。

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