256 楽しいのと辛いのとどっち?
文字数 1,224文字
楽しい方がいいに決まってる。
でも社会は辛いもので理不尽は当たり前だって言う人がいるけれども。
ほんとかな?
「空き缶は洗って捨てないといけないのに!」
「春になったら捨てるのに取ってあるんだよ」
「空き缶にトマトジュースがが残ってて・・・・・・・カビになってるじゃない!」
「怒るなよ」
怒鳴っている方が理不尽に見えるかもしれないけど、僕はその様子を見て少し考えてしまった。
迫田 さんと一緒に来たのは先般の大雪で塀が壊れた独居老人の家。『エクステリアの迫田』が修繕の依頼を受けたんだ。
僕らが作業をする横で怒鳴られているのが父親で怒鳴っているのが娘さん。父親は80歳を超えていて若い頃の不摂生がたたって重かった体重のために極端なO脚になっていて歩くのが困難だ。おそらく要介護2~3ぐらいの認定はしてもらえるのに絶対に申請が嫌だと娘さんを恫喝して来たらしい。
「恫喝って・・・穏やかなお父さんに見えますけどね」
「迫田さん。要介護申請や施設に入ったらどうかって話をしたらステッキで殴られそうになったんですよ、わたし」
娘さんが怒鳴ってたのはお父さんが捨てずに溜めに溜めていたトマトジュースの空き缶。
ツナの空き缶。
ペットボトル。
ビン。
それから、ビールの空き缶。
娘さんは定期的に料理の作り置きや掃除等のために訪問しているそうだけど、ゴミを隠してあったらしい。全て洗わずに一緒くたにして納屋の土間に積み上げられていたのだが、トマトジュースの汁が缶の中でドロドロのカビになっているのを、娘さんがキッチンのシンクで水を出しっぱなしにして洗っている。
「ねえ。兄さんに連絡は?」
「大丈夫だって言ってある」
「大丈夫じゃないじゃない」
「大丈夫じゃないか。父さんは病気でもなんでもない」
「歩けないのに?」
「歩けてるだろう」
「ファンヒーターの灯油を入れる時はどうしてるの?」
「ドラム缶の所までこの台車で灯油タンクを持って行って、また台車に積んで戻って来る」
「灯油タンクすら持ち上げられないんじゃない!」
僕と迫田さんは修繕の作業に没頭しようとするけど、すぐ隣でのふたりの遣り取りがとてもやるせない。
見ていて聴いていて辛い。
僕らの作業が終わる時、ちょうど娘さんがごみを洗う作業も終わった。
僕は娘さんに声を掛けてみた。
「建築現場の資材ゴミと一緒に捨てておきましょうか」
娘さんは答える。
「いいえ。有料のゴミ処理業者に持ち込みできるので大丈夫です。知ってますか?どうやってゴミの重さを計るか」
「いいえ」
「車でそのまま乗り入れる重量計があって、ゴミを積んだままで乗って、ゴミを下ろしてもらった後でまた乗って・・・その差でゴミの重さを出して計算するんですよ」
「詳しいんですね」
「何度もやってますから」
夜アパートに帰って縁美にこの話をした。
「どっちの気持ちも分かるよね」
「僕は娘さんが気の毒だったけどな」
「蓮見くん」
縁美は笑って言った。
「80過ぎた時に初めて分かるのかな」
でも社会は辛いもので理不尽は当たり前だって言う人がいるけれども。
ほんとかな?
「空き缶は洗って捨てないといけないのに!」
「春になったら捨てるのに取ってあるんだよ」
「空き缶にトマトジュースがが残ってて・・・・・・・カビになってるじゃない!」
「怒るなよ」
怒鳴っている方が理不尽に見えるかもしれないけど、僕はその様子を見て少し考えてしまった。
僕らが作業をする横で怒鳴られているのが父親で怒鳴っているのが娘さん。父親は80歳を超えていて若い頃の不摂生がたたって重かった体重のために極端なO脚になっていて歩くのが困難だ。おそらく要介護2~3ぐらいの認定はしてもらえるのに絶対に申請が嫌だと娘さんを恫喝して来たらしい。
「恫喝って・・・穏やかなお父さんに見えますけどね」
「迫田さん。要介護申請や施設に入ったらどうかって話をしたらステッキで殴られそうになったんですよ、わたし」
娘さんが怒鳴ってたのはお父さんが捨てずに溜めに溜めていたトマトジュースの空き缶。
ツナの空き缶。
ペットボトル。
ビン。
それから、ビールの空き缶。
娘さんは定期的に料理の作り置きや掃除等のために訪問しているそうだけど、ゴミを隠してあったらしい。全て洗わずに一緒くたにして納屋の土間に積み上げられていたのだが、トマトジュースの汁が缶の中でドロドロのカビになっているのを、娘さんがキッチンのシンクで水を出しっぱなしにして洗っている。
「ねえ。兄さんに連絡は?」
「大丈夫だって言ってある」
「大丈夫じゃないじゃない」
「大丈夫じゃないか。父さんは病気でもなんでもない」
「歩けないのに?」
「歩けてるだろう」
「ファンヒーターの灯油を入れる時はどうしてるの?」
「ドラム缶の所までこの台車で灯油タンクを持って行って、また台車に積んで戻って来る」
「灯油タンクすら持ち上げられないんじゃない!」
僕と迫田さんは修繕の作業に没頭しようとするけど、すぐ隣でのふたりの遣り取りがとてもやるせない。
見ていて聴いていて辛い。
僕らの作業が終わる時、ちょうど娘さんがごみを洗う作業も終わった。
僕は娘さんに声を掛けてみた。
「建築現場の資材ゴミと一緒に捨てておきましょうか」
娘さんは答える。
「いいえ。有料のゴミ処理業者に持ち込みできるので大丈夫です。知ってますか?どうやってゴミの重さを計るか」
「いいえ」
「車でそのまま乗り入れる重量計があって、ゴミを積んだままで乗って、ゴミを下ろしてもらった後でまた乗って・・・その差でゴミの重さを出して計算するんですよ」
「詳しいんですね」
「何度もやってますから」
夜アパートに帰って縁美にこの話をした。
「どっちの気持ちも分かるよね」
「僕は娘さんが気の毒だったけどな」
「蓮見くん」
縁美は笑って言った。
「80過ぎた時に初めて分かるのかな」