233 車と徒歩ならどっち?

文字数 1,166文字

「はい・・・・えっ、徒歩でですか?」

 電車も雪の影響を受けて一部区間の往復運行のみとなった。
 縁美(えんみ)のスーパーの最寄り駅の二駅手前までしか電車が動かないんだ。

 店長からは来られる駅まで乗ってきて、あとは歩いて来て欲しいと電話が入った。

蓮見(はすみ)くん、行って参ります!」
「無事を祈る」

 アパートのドアを閉め際、敬礼する縁美。
 凛々しい・・・・

「車ですか?」

 バスで迫田(さこた)さんの作業場に出勤した途端に僕は軽四トラックの運転席に座った。
 迫田さんは助手席。

「一応マニュアル教習でした」

 迫田さんの軽四トラックのギアとクラッチを操作する。

「うん、上手い上手い」
「でも雪道をマニュアルは初めてですね」
「すまんなあ・・・・俺は左肩が痛いからギア操作と重たいステアリングが無理なもんだから」
「迫田さん、僕も経験ですから」

 天候に否も応も無い。

「やあ、迫田さん、すんませんねえ」

 除雪するのは地元のホームセンター。
 この大雪でスコップやら灯油のポリタンクやらを買いに来るお客さんが殺到しているのに積み上げて置いた雪の山が駐車場の邪魔になっている。

『エクステリアの迫田』がスクランブル出動を要請されたんだ。

「蓮見さん、雪山の手前までバックして」
「はい」

 脇にはホームセンターのスタッフさん3人。

「ようし。荷台に雪を積み上げてくれ」

 僕もスタッフさんたちに加わって雪をスコップで荷台に積んでいく。

「固まってて重いな」
「これぞこの地方の雪さ」

 大汗かいて荷台が小さな雪山になった。

 用水まで積んで走ってそこで捨てる。
 僕の横の助手席には一番若いスタッフさんが乗った。

 ふたりで大通りまで走ると、手前が雪の段差になってる。

「一応四駆なので」
「なるほど」

 ただ、さすがに反動が必要だ。
 しかも段差の脇は雪の壁で視界が遮られている。

「俺が車を見ます」
「頼みます」

 スタッフさんがオーライ・オーライ・と手招きする。

「よし」

 僕は一気に越えようとした。

「ストップ!」

 スタッフさんの後ろを大きな除雪車が通過した。一旦止まる。

「くっ・・・」

 エンスト直前の状態をぐっと堪えて・・・

「よ!」

 乗り越えた。

 用水で荷台を油圧で持ち上げて雪を降ろした。子供の頃のミニカー遊びが実現して結構感動。

 用水で降ろしでまた戻って積んで・・・・これを10回繰り返した。

「お疲れさん!」
「迫田さん、遠慮しないで好きな金額書いた請求書持って来てね!」

 スタッフさんたちの手も借りたけど、これは対価ある仕事として受けた。

「お互いが対等であるためには、無償じゃダメなんだ」

 事業者たる迫田さんの言葉には説得力がある。

 夜、アパートに縁美が遅い時間にたどり着いた。

「縁美、ただいま帰還しました!」
「お疲れさま」

 汗ばんでるけど、彼女はねだった。

「蓮見くん。温めて?」

 どうやってあっためてあげようか。
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