219 年末は静かに過ごす?うるさく過ごす?どっち!?

文字数 1,143文字

 静かな年末だ。

蓮見(はすみ)さん!縁美(えんみ)さん!手伝いに来たよ!」

 鳴り物娘の乱入で僕と縁美(えんみ)のアパートの安楽は崩れた。

「ま、真直(まなお)ちゃん・・・何の手伝いに・・・?」
「大掃除とか!」
「もう終わったよ」
「おせち作りとか!」
「それも終わった」
「餅つきとか!」
「昨日終わった」
「凧揚げとか!」
「・・・・・・・帰って迫田(さこた)さんのお手伝いしなよ」
「まあまあ、蓮見(はすみ)くん」

 どういうわけか真直ちゃんに対して観音さま程の寛容さを見せる縁美。

 何か手伝えることはないかとアパートの中を見て・・・窓から外を見て、縁美が思い付いた。

「あ、そうだ。年越の大祓(としこしのおおはらえ)、3人で行かない?」

 手伝いじゃないけど。

 氏神様に向かった。

「真直ちゃんのお家の氏神さまってどこのお宮さん?」

 縁美の問いに真直ちゃんは地元でも有名な工芸の神様のお社の名を告げてくれた。

「ふうん。おじい様のお仕事と関係が深い氏神さまなんだね。偶然?」
「違うよ、縁美さん。氏神様の周辺に職人たちの家が集まってた、ってことでむしろ神様がおられたから代々大工やってるんだよ」

 僕も朔日にはその神社にお参りに行くようにしている。

『早く一人前の技術が身に付きますように』って願いも込めて。

 僕らが今日お参りに来たのは僕と縁美の街の氏神さま。
 最近は色々と世情も変わってしまって年越の大祓も大勢がお参りに来る訳ではないんだけど。

「へえ・・・セルフお祓いなんだ!」
「真直ちゃん、はしゃがない」
「はーい」

 まるで小学生みたいだけど・・・まあ、素直とも言える。

「では、私が今から祝詞を上げますので、皆さん、紙袋に入っている小さな祓串(はらえぐし)でご自身の身をお清めください」

 割り箸ぐらいの棒で作った『ミニ祓串』を肩に、とん・とん、と当てて僕らは自らを清める。

「では、神前に参ります」

 宮司さんの後について僕らは一列渋滞になって、隣の御神前へと歩く。

「これから茅の輪(ちごのわ)をくぐります。わたしの後についてきてください」

 真直ちゃんがはしゃぐ。

「幼稚園の引率だね、ひゃひゃひゃ」
「しっ」

 こうして夏越の祓(なごしのはらえ)の後に半年間で溜まった垢を、ぐるぐると八の字に輪をくぐって回ることによって清めるのだ。

「つまり悪いことしたのを無効にしてもらえるってことだよね」
「真直ちゃん・・・ちょっと違うと思うよ」

 日曜の晩御飯は真直ちゃんも手伝うそうなので、神社でこのまま別れることにした。

「じゃあ真直ちゃんとわたしは年内は今日で最後かな。よいお年を」
「縁美さん。最後じゃないかも」

 ん?

「な、なに・・・真直ちゃん。どういう意味?」
「ひゃひゃひゃ。蓮見さーん。心配しなくて大丈夫だよー」
「・・・真直ちゃんが大丈夫って言って大丈夫だった試しがないんだけど・・・」
「大丈夫だよ、蓮見さーん。大晦日にちょっと顔出しに来るだけだからー」
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