269 草と木なら・・・君はどちらでありたい?
文字数 1,253文字
「誇らしいね」
縁美 はほんとうにほんとうに、真直 ちゃんの土木建築学科首席を喜んだ。
「素晴らしいさね」
絵プロ鵜 も手放しで賞賛した。
本当は迫田さんの喪に服しているんだけど、法事も兼ねてということで金曜の今夜、静かな夕食会を開いた。
豆腐料理のお店で簡素な精進料理のコースを頼んだ。
「では、迫田さんを偲んで」
僕がそう言ってみんなでノンアルコールの梅酒を一口飲んでから主賓に促した。
「真直ちゃん。ひとこと」
「蓮見 さん。いいよそんなの」
「いやいや真直どの。是非とも聴きたいさね」
「真直ちゃんは自慢の娘だから!」
縁美が『娘』って言葉を使った。
さすがの真直ちゃんもそれを言われてはもう抗弁無しだ。
「・・・おじいちゃんは本当に立派な大工でした。途中からはおばあちゃんも父母も居なくなって、おじいちゃんだけを頼りに暮らしてきました」
みんな、目をテーブルに落として聴き入る。
「おじいちゃんは時々、『草』の話をしました。それから『木』の話も」
「草木・・・?」
「絵プちゃん。それはね、こういうことなんだよ・・・草も生えないって言葉はとてもネガティブな意味で使われるし、最近は草って言葉を片腹痛いって感じで使うけど、でも違う。『雑草』はコンクリートを割ってでも地上に這い出る」
「なるほど」
「木は草の延長」
真直ちゃんはそう言うけど草は草だろうと僕は思った。でも、縁美が僕の感情を否定した。
「わかる」
「縁美さん、分かってくれる」
「わかるよ・・・草はすぐに枯れちゃうけど、でも、枯れなければいつか木になるよ」
「縁美さん、ありがとう。たとえ辛くて悲しくてしおれたりしても、枯れさえせずにいれば、いつか草も木になれる・・・そんなことをおじいちゃんは言ってました」
「深いさね」
「ご、ごめん、あのさ」
一斉にみんな僕を見る。
「草が木にってやっぱり分かんないよ」
「・・・・・・蓮見くんは、もう木だから」
「僕が・・・木?」
「うん。だから自分では気付かないだけ」
「縁美。どうして僕が木なの?」
「だって、親になろうとしてる」
ああ・・・
そうなんだな・・・
「蓮見くんは真直ちゃんの親になって、木陰の傘の中に入れてあげようとしてる。日本の法律に定められた正式な親になろうとしてる。だからだよ」
「でも、縁美だって。絵プロ鵜だって。着実に技能を磨いてる真直ちゃんだって」
「まあまあ蓮見どの。とりあえず今はそういうことにしとくさね。ここにいる女子3人は草さね。草は草でもいずれ花開く草さね」
「花・・・・・」
「蓮見くん」
「うん」
「取り敢えず今はわたしたちを守る傘でいてね」
「も・・・・・・もちろんさ」
ここへ来て真直ちゃんがいつものモードに戻った。
「蓮見さーん。お願いがあるよー」
「えっ」
「来週の木曜日、3月18日ってウチの高校の卒業式なんだ」
「へえ」
「毎年各学科で首席だった一年生が仕切って卒業生を楽しませる『何か』をしなくちゃいけないことになってて」
「へえ。何か、って何?」
「それを蓮見さんに宿題」
「えっ!」
「期待してるね、親方!ひゃひゃひゃ!」
「素晴らしいさね」
本当は迫田さんの喪に服しているんだけど、法事も兼ねてということで金曜の今夜、静かな夕食会を開いた。
豆腐料理のお店で簡素な精進料理のコースを頼んだ。
「では、迫田さんを偲んで」
僕がそう言ってみんなでノンアルコールの梅酒を一口飲んでから主賓に促した。
「真直ちゃん。ひとこと」
「
「いやいや真直どの。是非とも聴きたいさね」
「真直ちゃんは自慢の娘だから!」
縁美が『娘』って言葉を使った。
さすがの真直ちゃんもそれを言われてはもう抗弁無しだ。
「・・・おじいちゃんは本当に立派な大工でした。途中からはおばあちゃんも父母も居なくなって、おじいちゃんだけを頼りに暮らしてきました」
みんな、目をテーブルに落として聴き入る。
「おじいちゃんは時々、『草』の話をしました。それから『木』の話も」
「草木・・・?」
「絵プちゃん。それはね、こういうことなんだよ・・・草も生えないって言葉はとてもネガティブな意味で使われるし、最近は草って言葉を片腹痛いって感じで使うけど、でも違う。『雑草』はコンクリートを割ってでも地上に這い出る」
「なるほど」
「木は草の延長」
真直ちゃんはそう言うけど草は草だろうと僕は思った。でも、縁美が僕の感情を否定した。
「わかる」
「縁美さん、分かってくれる」
「わかるよ・・・草はすぐに枯れちゃうけど、でも、枯れなければいつか木になるよ」
「縁美さん、ありがとう。たとえ辛くて悲しくてしおれたりしても、枯れさえせずにいれば、いつか草も木になれる・・・そんなことをおじいちゃんは言ってました」
「深いさね」
「ご、ごめん、あのさ」
一斉にみんな僕を見る。
「草が木にってやっぱり分かんないよ」
「・・・・・・蓮見くんは、もう木だから」
「僕が・・・木?」
「うん。だから自分では気付かないだけ」
「縁美。どうして僕が木なの?」
「だって、親になろうとしてる」
ああ・・・
そうなんだな・・・
「蓮見くんは真直ちゃんの親になって、木陰の傘の中に入れてあげようとしてる。日本の法律に定められた正式な親になろうとしてる。だからだよ」
「でも、縁美だって。絵プロ鵜だって。着実に技能を磨いてる真直ちゃんだって」
「まあまあ蓮見どの。とりあえず今はそういうことにしとくさね。ここにいる女子3人は草さね。草は草でもいずれ花開く草さね」
「花・・・・・」
「蓮見くん」
「うん」
「取り敢えず今はわたしたちを守る傘でいてね」
「も・・・・・・もちろんさ」
ここへ来て真直ちゃんがいつものモードに戻った。
「蓮見さーん。お願いがあるよー」
「えっ」
「来週の木曜日、3月18日ってウチの高校の卒業式なんだ」
「へえ」
「毎年各学科で首席だった一年生が仕切って卒業生を楽しませる『何か』をしなくちゃいけないことになってて」
「へえ。何か、って何?」
「それを蓮見さんに宿題」
「えっ!」
「期待してるね、親方!ひゃひゃひゃ!」