SEVENTY-SIX 花火は『ドーン』と『シュワワ』どっち?
文字数 1,197文字
花火大会をやることになった。
場所は未定。時間も未定。
「美咲 さん。いわゆるエッセンシャルワーカーの方たちに敬意を払うっていうサプライズ花火ですか?」
「まあ、サラトちゃんが言うみたいなそういうことができたら一番いいけど単にわたしたちが街を彷徨って一番落ち着ける場所でまったりするって感じかな」
「じゃあ、バケツに水持参で」
「蓮見 っち、任せたよ」
風情があるさ。
線香花火も縁美に持たせたい。
「縁美 も参加して欲しいってみんなのたっての希望だよ」
「サラトちゃんも?」
意識してるなあ・・・
なんにせよノー残業デーの水曜夜に現地集合した。
「やっぱり河川敷でしょう」
全員美咲さんの意見に賛同した。
いくら好きな場所で花火したいって言ったって繁華街ってわけにもいかないだろうし。
僕らはもう少しで完全に暮れる夕闇の中、土手のサイクリング・ロードを下流に向かって歩いた。
メンバーは、美咲さん、サラトちゃん、縁美、僕。
そしてもうひとり、サプライズメンバーが。
「やあやあ皆の衆、遅延して申し訳ござらぬ」
絵プロ鵜 だ。
絵プロ鵜なら珍しくもなんともないという意見もあろうが、今宵は違う。
「かわいいね、その朝顔の浴衣」
「いやー、かたじけない。縁美どののような美人からそんなことを言われると恐縮至極だ」
絵プロ鵜以外は4人とも会社帰りだから浴衣というわけにはいかない。
でも、ひとりだけ浴衣、っていうことを抜きにしても絵プロ鵜は綺麗だった。
「うちわとか持ったら絵になるよ」
そう言って縁美が彼女にやっぱり朝顔の淡い絵柄のうちわを貸す。
「いやー、かたじけない」
「あとは蛍でもいれば」
「縁美さん、蛍いますよ」
「え。サラトちゃん、どこに?」
「前行ったわたしの祖母の家の付近です。小さな小川が山の麓にあってそこに毎年飛び交います」
みんなでこの夏に行こう、って話になった。
「あの・・・重いのでそろそろ場所を」
「蓮見っち〜、もちっと頑張りなよー」
「わたし、持ちますよ」
サラトちゃんが僕のバケツを持とうと互いの手が触れた瞬間。
パッ!
「え」
「あ」
「お」
「わあ」
「たまやー、か?かぎやー、か?」
多分、十尺玉が完全に暮れた夜空で開いた。
ドドドーォォォォン・・・
光よりも遅れて地鳴りも混じったぐらいの重厚な打ち上げ花火の音。
「サプライズ花火だ!」
「ほんとね。花火師さんたちが」
河川敷のコントロールボックスの前にハッピを着た男たちがいた。
女性の花火師もひとり混じって見えた。
夜ランしていた人や、夕涼みに歩いていたカップル達も立ち止まって花火を見上げ、それから花火師たちに手を振った。
そして川のほとりには総合病院も建っているので医療スタッフさんや患者さんたちの慰めとなるだろう。
「わたしが預かります」
打ち上げ花火の勢いに圧倒されて同じ持ち手を重なるようにして握っていた僕とサラトちゃんから、縁美がバケツを取り上げた。
場所は未定。時間も未定。
「
「まあ、サラトちゃんが言うみたいなそういうことができたら一番いいけど単にわたしたちが街を彷徨って一番落ち着ける場所でまったりするって感じかな」
「じゃあ、バケツに水持参で」
「
風情があるさ。
線香花火も縁美に持たせたい。
「
「サラトちゃんも?」
意識してるなあ・・・
なんにせよノー残業デーの水曜夜に現地集合した。
「やっぱり河川敷でしょう」
全員美咲さんの意見に賛同した。
いくら好きな場所で花火したいって言ったって繁華街ってわけにもいかないだろうし。
僕らはもう少しで完全に暮れる夕闇の中、土手のサイクリング・ロードを下流に向かって歩いた。
メンバーは、美咲さん、サラトちゃん、縁美、僕。
そしてもうひとり、サプライズメンバーが。
「やあやあ皆の衆、遅延して申し訳ござらぬ」
絵プロ鵜なら珍しくもなんともないという意見もあろうが、今宵は違う。
「かわいいね、その朝顔の浴衣」
「いやー、かたじけない。縁美どののような美人からそんなことを言われると恐縮至極だ」
絵プロ鵜以外は4人とも会社帰りだから浴衣というわけにはいかない。
でも、ひとりだけ浴衣、っていうことを抜きにしても絵プロ鵜は綺麗だった。
「うちわとか持ったら絵になるよ」
そう言って縁美が彼女にやっぱり朝顔の淡い絵柄のうちわを貸す。
「いやー、かたじけない」
「あとは蛍でもいれば」
「縁美さん、蛍いますよ」
「え。サラトちゃん、どこに?」
「前行ったわたしの祖母の家の付近です。小さな小川が山の麓にあってそこに毎年飛び交います」
みんなでこの夏に行こう、って話になった。
「あの・・・重いのでそろそろ場所を」
「蓮見っち〜、もちっと頑張りなよー」
「わたし、持ちますよ」
サラトちゃんが僕のバケツを持とうと互いの手が触れた瞬間。
パッ!
「え」
「あ」
「お」
「わあ」
「たまやー、か?かぎやー、か?」
多分、十尺玉が完全に暮れた夜空で開いた。
ドドドーォォォォン・・・
光よりも遅れて地鳴りも混じったぐらいの重厚な打ち上げ花火の音。
「サプライズ花火だ!」
「ほんとね。花火師さんたちが」
河川敷のコントロールボックスの前にハッピを着た男たちがいた。
女性の花火師もひとり混じって見えた。
夜ランしていた人や、夕涼みに歩いていたカップル達も立ち止まって花火を見上げ、それから花火師たちに手を振った。
そして川のほとりには総合病院も建っているので医療スタッフさんや患者さんたちの慰めとなるだろう。
「わたしが預かります」
打ち上げ花火の勢いに圧倒されて同じ持ち手を重なるようにして握っていた僕とサラトちゃんから、縁美がバケツを取り上げた。