第254話
文字数 708文字
付き合っている時も上島は嫉妬に駆られて絡んでくるときがあった。厄介だとは思いながらも上茶谷は嫌だと感じたことはなかった。たとえ恋人にでも弱さをみせまいと振る舞ってしまう上茶谷からすると、弱さや感情を晒すことに躊躇 しない上島が羨ましく、愛おしかった。実際別れたあとでも苦しめられたのは、こんな顔をして上茶谷を求める上島の残像だった。それが蜘蛛の糸のように上茶谷に絡みつきなかなか離れなかったのだ。
今だって何も感じないと言ったら嘘になる。けれどそれは、遠くの風景を眺めて郷愁に駆られる感覚に似ていた。甘くてビターな思い出。心を微かにゆらすものの、もうその琴線まではゆさぶったりしない。上茶谷の表情をみて上島は開きかけた口の動きを止める。それから何かを悟った人のように静かな笑みをうかべた。
「まあそうだよな。俺はお前に対してなにか言える立場じゃない」
「……そうね。今はもう恋人じゃない。前にも言った通りよ」
上茶谷は軽く首をふる。
「この話はおしまい。これからまりあと食事に行くの。あなたがなぜそんなに不機嫌になったのかまりあに聞いてくるわ。あのコもその現場にいたんでしょう? それに蒼佑、あなた明らかに疲れてる。今日は大人しく帰って休んだほうが……」
上茶谷がそこまで言ったところで、視界が遮られた。いきなり上島に抱きしめられたのだ。
「蒼佑!?」
「……そんなにあいつがいいの? あんな小僧が?」
「何を言って……」
その時だった。ガタンと何かが倒れる音がして、上茶谷は慌てて音がしたほうに視線を向ける。まりあが入り口のところで、どこか呆然とした表情で尻もちをついていた。その横には撮影で使った小さな植木鉢が転がっている。
今だって何も感じないと言ったら嘘になる。けれどそれは、遠くの風景を眺めて郷愁に駆られる感覚に似ていた。甘くてビターな思い出。心を微かにゆらすものの、もうその琴線まではゆさぶったりしない。上茶谷の表情をみて上島は開きかけた口の動きを止める。それから何かを悟った人のように静かな笑みをうかべた。
「まあそうだよな。俺はお前に対してなにか言える立場じゃない」
「……そうね。今はもう恋人じゃない。前にも言った通りよ」
上茶谷は軽く首をふる。
「この話はおしまい。これからまりあと食事に行くの。あなたがなぜそんなに不機嫌になったのかまりあに聞いてくるわ。あのコもその現場にいたんでしょう? それに蒼佑、あなた明らかに疲れてる。今日は大人しく帰って休んだほうが……」
上茶谷がそこまで言ったところで、視界が遮られた。いきなり上島に抱きしめられたのだ。
「蒼佑!?」
「……そんなにあいつがいいの? あんな小僧が?」
「何を言って……」
その時だった。ガタンと何かが倒れる音がして、上茶谷は慌てて音がしたほうに視線を向ける。まりあが入り口のところで、どこか呆然とした表情で尻もちをついていた。その横には撮影で使った小さな植木鉢が転がっている。