第111話
文字数 692文字
「ダイゴさん、ご予約の早川さまがいらっしゃってます」
女性アシスタントの声がどこか緊張感が漂う二人の間に響いた。上茶谷はハッした表情を浮かべて笑顔をみせた。
「ごめんなさい、行かなきゃ。コーヒーとお菓子、持ってくるようにアシスタントの子にいうから食べてて。また後で来るわね」
そういってぽんとまりあの肩に手を置いたあと、アシスタントに何かを耳打ちして早足でいってしまった。その後は上茶谷は忙しくなったようで、まりあと話す時間はなさそうだった。鏡越しに時折見える忙しそうな上茶谷を目の端に捉えながら、まりあはぼんやり思う。
(たまたま部屋が隣で仲良くなっただけなのに、ダイゴさんは私にすごくよくしてくれているし、優しい。それで十分じゃない)
出してもらった焼き菓子を食べたあと、先程までとは種類の違う脱力感にとらわれて鏡をぼんやり見つめていると、アシスタントとは明らかに違う雰囲気の女性がまりあの背後に立った。年齢はまりあより上だろう。
肩先できっちり切られたさらさらのボブヘア。そこからのぞく耳からロングピアスの先端についたルビーが揺れている。真っ赤なシャツと黒いワイドパンツの、赤と黒のコントラストが目に鮮やかだ。バーガンディカラーのアイライナーを潔よく太めに引いた、完璧なアイメイクを施された彼女の瞳が緩む。ぼんやりと彼女を見つめていたまりあとかちりと視線があった。
「こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
いきなり話しかけられて、まりあはすこし慌ててしまう。
「カミちゃんのカットモデルの、えーと、板野さん」
「あ、はい! そうです」
まりあが思わず背すじを伸ばすと鏡のなかで彼女が笑った。
女性アシスタントの声がどこか緊張感が漂う二人の間に響いた。上茶谷はハッした表情を浮かべて笑顔をみせた。
「ごめんなさい、行かなきゃ。コーヒーとお菓子、持ってくるようにアシスタントの子にいうから食べてて。また後で来るわね」
そういってぽんとまりあの肩に手を置いたあと、アシスタントに何かを耳打ちして早足でいってしまった。その後は上茶谷は忙しくなったようで、まりあと話す時間はなさそうだった。鏡越しに時折見える忙しそうな上茶谷を目の端に捉えながら、まりあはぼんやり思う。
(たまたま部屋が隣で仲良くなっただけなのに、ダイゴさんは私にすごくよくしてくれているし、優しい。それで十分じゃない)
出してもらった焼き菓子を食べたあと、先程までとは種類の違う脱力感にとらわれて鏡をぼんやり見つめていると、アシスタントとは明らかに違う雰囲気の女性がまりあの背後に立った。年齢はまりあより上だろう。
肩先できっちり切られたさらさらのボブヘア。そこからのぞく耳からロングピアスの先端についたルビーが揺れている。真っ赤なシャツと黒いワイドパンツの、赤と黒のコントラストが目に鮮やかだ。バーガンディカラーのアイライナーを潔よく太めに引いた、完璧なアイメイクを施された彼女の瞳が緩む。ぼんやりと彼女を見つめていたまりあとかちりと視線があった。
「こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
いきなり話しかけられて、まりあはすこし慌ててしまう。
「カミちゃんのカットモデルの、えーと、板野さん」
「あ、はい! そうです」
まりあが思わず背すじを伸ばすと鏡のなかで彼女が笑った。