第93話
文字数 691文字
「俺は部外者だからね。経営者同士というもあるし話しやすかったんだと思う。それに……リカコさんはお前を意識しているところがあったからさ。大悟の前では弱っているところは見せたくなかったんだよ」
上島が上茶谷の心情を汲み取ったように静かにそう答える。恐らくそれが正解なのだと上茶谷もわかっている。それでもやはり心からは納得できない。
「迷っているリカコさんを、後押ししたのは蒼佑でしょ?」
「……決断したのは彼女だよ」
どうしても声が尖ってしまう。上島と別れてから数年間、心の奥底に澱んでいたドロドロした感情がふき上げてくるのを止められない。
「蒼佑はいつもそう。私の平穏な日常を壊すのよ!」
キツい調子でそう言ってしまってから上茶谷はハッとする。リカコが経営から離れたいと考えたことは上島に関係ない。時期が早まったことに彼が関係しているのは間違いないが、遅かれ早かれいつかはこうなっていただろう。これは八つ当たりだ。上島に別れを切り出された時ですら、こんな言葉を吐かないように耐えていたのに。上茶谷は苦い思いを噛みしめる。
「ごめん」
上島がぼつりとそう呟いた後また沈黙が落ちる。会話が途切れた空間にこの車特有の乾いたエンジン音が唸るように響いた。車はちょうど湾岸線のベイブリッジ上を走り抜けたところだった。車窓から、華やかなネオンが瞬くお台場の夜景が見える。それらをぼんやりと瞳に映し少しづつ頭が冷えてきた上茶谷はゆっくり口を開いた。
「……さっき言った事はほとんど八つ当たり。こちらこそごめんなさい」
「いや、俺が悪いよ」
思わず横を見ると、どこか痛みを耐えているような上島の横顔が目に入った。
上島が上茶谷の心情を汲み取ったように静かにそう答える。恐らくそれが正解なのだと上茶谷もわかっている。それでもやはり心からは納得できない。
「迷っているリカコさんを、後押ししたのは蒼佑でしょ?」
「……決断したのは彼女だよ」
どうしても声が尖ってしまう。上島と別れてから数年間、心の奥底に澱んでいたドロドロした感情がふき上げてくるのを止められない。
「蒼佑はいつもそう。私の平穏な日常を壊すのよ!」
キツい調子でそう言ってしまってから上茶谷はハッとする。リカコが経営から離れたいと考えたことは上島に関係ない。時期が早まったことに彼が関係しているのは間違いないが、遅かれ早かれいつかはこうなっていただろう。これは八つ当たりだ。上島に別れを切り出された時ですら、こんな言葉を吐かないように耐えていたのに。上茶谷は苦い思いを噛みしめる。
「ごめん」
上島がぼつりとそう呟いた後また沈黙が落ちる。会話が途切れた空間にこの車特有の乾いたエンジン音が唸るように響いた。車はちょうど湾岸線のベイブリッジ上を走り抜けたところだった。車窓から、華やかなネオンが瞬くお台場の夜景が見える。それらをぼんやりと瞳に映し少しづつ頭が冷えてきた上茶谷はゆっくり口を開いた。
「……さっき言った事はほとんど八つ当たり。こちらこそごめんなさい」
「いや、俺が悪いよ」
思わず横を見ると、どこか痛みを耐えているような上島の横顔が目に入った。