第135話
文字数 784文字
「母と私も借金返済に追われて酷い目にあったわ。でもね、父のせいで蓄えなんてすっからかんになったのに、母は父を嫌いになりきれないみたいなのよね。離婚して籍もとっくに抜いたのに、たまに会ってご飯食べたりしているみたい。家庭を省みないサイテー男っていつも言ってたくせに。よくわからないわよね」
上茶谷は静かにため息をついて苦笑する。
「……夫婦とか家族とか。色々な形があるのかもしれませんね」
まりあが独り言のように呟くと、上茶谷は頷く。
「そうね。みんなそれぞれよね。何が幸せかなんて当人じゃないとわからない」
そういって視線を下に落とした上茶谷の横顔は、やっぱりとても綺麗でどこかせつなさを帯びていた。まりあはその横顔を見て悟る。上茶谷は彼女の何倍もの苦難を乗り越え生きてきたのだと。彼自身のジェンダーのこと、さらには家の借金のために両親は離婚しているのだ。悩まないはずが無い。それでも彼はそんなことを顔には出さずいつも凛としている。けれど気苦労が絶えない日々を通り抜けてきた彼は人の痛みに敏 い。だからこそとても優しい。まりあはなんだか涙が出そうになってしまう。
「ダイゴさん」
膝で前にすすむと、座っている上茶谷を見下ろす形になる。見上げてくる彼はまるで傷つきやすいいたいけな少年のようにみえた。
「美少年……」
まりあが無意識に呟いた言葉に上茶谷が思いっきりふきだした。
「ちょっと待って。どこに美少年がいるの?」
「ここにいるじゃないですか」
笑いながらそう応じて上茶谷の頭ごと胸のなかで抱きしめる。彼のなかにいる泣きそうな顔をした少年と一緒に。縦に長い背中がほんのすこし揺れた。その背中をぽんぽんとリズムをつけて優しく叩く。上茶谷は羽を休める鳥のようにまりあの腕のなかでじっとしていた。
「まりあ」
しばらくして。上茶谷がぽつりと呟いた。
「私たちの関係ってなんなのかしらね」
上茶谷は静かにため息をついて苦笑する。
「……夫婦とか家族とか。色々な形があるのかもしれませんね」
まりあが独り言のように呟くと、上茶谷は頷く。
「そうね。みんなそれぞれよね。何が幸せかなんて当人じゃないとわからない」
そういって視線を下に落とした上茶谷の横顔は、やっぱりとても綺麗でどこかせつなさを帯びていた。まりあはその横顔を見て悟る。上茶谷は彼女の何倍もの苦難を乗り越え生きてきたのだと。彼自身のジェンダーのこと、さらには家の借金のために両親は離婚しているのだ。悩まないはずが無い。それでも彼はそんなことを顔には出さずいつも凛としている。けれど気苦労が絶えない日々を通り抜けてきた彼は人の痛みに
「ダイゴさん」
膝で前にすすむと、座っている上茶谷を見下ろす形になる。見上げてくる彼はまるで傷つきやすいいたいけな少年のようにみえた。
「美少年……」
まりあが無意識に呟いた言葉に上茶谷が思いっきりふきだした。
「ちょっと待って。どこに美少年がいるの?」
「ここにいるじゃないですか」
笑いながらそう応じて上茶谷の頭ごと胸のなかで抱きしめる。彼のなかにいる泣きそうな顔をした少年と一緒に。縦に長い背中がほんのすこし揺れた。その背中をぽんぽんとリズムをつけて優しく叩く。上茶谷は羽を休める鳥のようにまりあの腕のなかでじっとしていた。
「まりあ」
しばらくして。上茶谷がぽつりと呟いた。
「私たちの関係ってなんなのかしらね」