第258話
文字数 633文字
なにかに取り憑かれたように、土や肥料を集めていたら上茶谷に止められて。彼を見上げた途端、何かがまりあの中でぱりんと割れ、勝手に涙がこぼれ落ちた。そうして混乱したまま二人から、上茶谷から、逃げ出してしまったのだ。
普段運動不足の身体はまりあに長時間走ることを許してくれない。雨の香りがする夜で、湿気を含んで喉に絡みつくような空気もまりあの邪魔をする。とうとう耐えきれなくなって立ち止まった。顔をあげるとそこは銀座四丁目交差点の交番前だった。瞬くネオンが滲んで見える。涙がポロリとまた一粒落ちてきたからすぐに手の甲で拭う。退社時間が一緒になったナナにからかわれながら、更衣室でスチームヘアアイロンを借りて、ふんわりカールさせたはずの前髪も汗で額にはりついてしまった。つい一時間前までは緊張と少しの不安、そして期待でいっぱいだったのに。
「バカみたい」
そう呟いてまりあが大きな吐息をついたその時だった。ぎゅっと後ろから手首を掴まれ、思わずひっと小さく叫んで振り返った。
「やっと捕まえた。いつもはのんびり歩いているのに、どうしてこういう時は足が速いの?」
上茶谷だった。彼も息を切らしていた。普段は泰然としている人がかなり慌てた様子で、早口でそういう。出会い頭にそう言われてまりあの激情ボタンがポチっと押されてしまう。
「い、いつもトロくてすいませんね! わたしだって早く走ろうと思ったら走れるんですっ!」
つい喧嘩腰にそう答えると上茶谷は瞳を見開いて困ったように微笑んだ。
普段運動不足の身体はまりあに長時間走ることを許してくれない。雨の香りがする夜で、湿気を含んで喉に絡みつくような空気もまりあの邪魔をする。とうとう耐えきれなくなって立ち止まった。顔をあげるとそこは銀座四丁目交差点の交番前だった。瞬くネオンが滲んで見える。涙がポロリとまた一粒落ちてきたからすぐに手の甲で拭う。退社時間が一緒になったナナにからかわれながら、更衣室でスチームヘアアイロンを借りて、ふんわりカールさせたはずの前髪も汗で額にはりついてしまった。つい一時間前までは緊張と少しの不安、そして期待でいっぱいだったのに。
「バカみたい」
そう呟いてまりあが大きな吐息をついたその時だった。ぎゅっと後ろから手首を掴まれ、思わずひっと小さく叫んで振り返った。
「やっと捕まえた。いつもはのんびり歩いているのに、どうしてこういう時は足が速いの?」
上茶谷だった。彼も息を切らしていた。普段は泰然としている人がかなり慌てた様子で、早口でそういう。出会い頭にそう言われてまりあの激情ボタンがポチっと押されてしまう。
「い、いつもトロくてすいませんね! わたしだって早く走ろうと思ったら走れるんですっ!」
つい喧嘩腰にそう答えると上茶谷は瞳を見開いて困ったように微笑んだ。