第107話
文字数 749文字
「いえいえ、めっそうもない! 正真正銘お隣さんでございます!」
咄嗟に言ってしまった言葉が、時代劇のお代官様に睨まれた商人の言い訳みたいだとおもいついて、余計恥ずかしくなってしまう。案の定、まりあをみつめていたヤナセの表情が、人に化けたタヌキを見つけてしまったような顔になり、さらには滅多に緩むことがなさそうな目尻が下がって、笑いそうになった。
「すいません。余計なことをいってしまって。おまたせしました。フロアへどうぞ」
ヤナセが笑いを堪えながら席までまりあを案内すると上茶谷が驚いた顔をした。
「ヤナセくんの笑顔、かなりレアでびっくりしたんだけど」
ヤナセは笑顔をすぐひっこめて、すいませんといったあと真顔になり、頭を下げてすぐに奥にいってしまった。その後ろ姿を見つめていた上茶谷が呟いた。
「何を話していたの?」
「え、えーと。なんだっけ」
咄嗟になんて言っていいか分からずしどろもどろにそういうまりあをまじまじと見て、上茶谷は笑った。
「まあいいわ。さ、ここに座ってくれる?」
まりあをスタイリングチェアに座らせると、手馴れた様子で頭に巻いたタオルを取りカットケープをつける。鏡のなかで上茶谷と目が合う。彼の視線はまりあを慈しむように優しい。先程のヤナセの言葉もあってなんだか照れてしまう。つい視線を下に向けると耳のあたりに手のひらをあてて、そっと顔をあげさせられた。やっぱり彼に触れられるのは気持ちいい。思わず大きな吐息をついてしまう。
「五センチくらい、もう少しかしら。切っていい?」
手を離して鎖骨のあたりまで伸びた髪に触れた上茶谷と目が合う。彼の眼差しはもう仕事モードで真剣なものだったから、今度はまりあも照れたりせず真っ直ぐ見つめ返して頷く。
「全然大丈夫です。全部、ダイゴさんにお任せします」
咄嗟に言ってしまった言葉が、時代劇のお代官様に睨まれた商人の言い訳みたいだとおもいついて、余計恥ずかしくなってしまう。案の定、まりあをみつめていたヤナセの表情が、人に化けたタヌキを見つけてしまったような顔になり、さらには滅多に緩むことがなさそうな目尻が下がって、笑いそうになった。
「すいません。余計なことをいってしまって。おまたせしました。フロアへどうぞ」
ヤナセが笑いを堪えながら席までまりあを案内すると上茶谷が驚いた顔をした。
「ヤナセくんの笑顔、かなりレアでびっくりしたんだけど」
ヤナセは笑顔をすぐひっこめて、すいませんといったあと真顔になり、頭を下げてすぐに奥にいってしまった。その後ろ姿を見つめていた上茶谷が呟いた。
「何を話していたの?」
「え、えーと。なんだっけ」
咄嗟になんて言っていいか分からずしどろもどろにそういうまりあをまじまじと見て、上茶谷は笑った。
「まあいいわ。さ、ここに座ってくれる?」
まりあをスタイリングチェアに座らせると、手馴れた様子で頭に巻いたタオルを取りカットケープをつける。鏡のなかで上茶谷と目が合う。彼の視線はまりあを慈しむように優しい。先程のヤナセの言葉もあってなんだか照れてしまう。つい視線を下に向けると耳のあたりに手のひらをあてて、そっと顔をあげさせられた。やっぱり彼に触れられるのは気持ちいい。思わず大きな吐息をついてしまう。
「五センチくらい、もう少しかしら。切っていい?」
手を離して鎖骨のあたりまで伸びた髪に触れた上茶谷と目が合う。彼の眼差しはもう仕事モードで真剣なものだったから、今度はまりあも照れたりせず真っ直ぐ見つめ返して頷く。
「全然大丈夫です。全部、ダイゴさんにお任せします」