第89話
文字数 632文字
まりあは坂口の言葉に大きく瞳を見開いた。
「でもご飯食べるって全然罰ゲームじゃないよね?」
坂口は笑顔をほんのすこし淡くして首を傾げた。
「……いや。俺にとってはご褒美ですけど、板野さんからしたら罰ゲームかなって思ったんで」
彼はそう言ってどこか切なげに瞳を細めてまりあを見た。普段はポーカーフェイスのこの人に、こんな表情でこんなふうに言われてしまったら。流石にまりあも平常心が揺らいでしまいそうになる。だからあえて明るい調子で言った。
「罰ゲームな訳ないでしょ。坂口くんと話すの楽しいし。あ、そうだ。ナナちゃんも誘ってみようか?」
頭の片隅にナナのこともあったから努めてさりげない調子で提案してみる。けれど坂口は数秒考えるように遠くを見た後、意を決したようにきっぱり言った。
「いえ。板野さんと俺の二人でお願いします」
まりあはえっと小さく呟いたあと、坂口を見つめてしまう。彼はまりあの答えを待ってじっと見つめてくる。
「だめ、ですか?」
動きを止めてしまったまりあに、ややトーンダウンした声で坂口がたずねてくる。まっすぐな眼差しで見つめてくる彼を見て中途半端に話をそらしてはいけない。まりあは腹を括った。
「ううんダメじゃないよ。いいよ。行こう」
坂口の不安そうな瞳が嬉しそうな色合いを帯びていく。よかったと呟いて照れたように微笑んだ。見慣れている営業スマイルとは全然違う、年相応の自然な笑顔。素直に喜んでいるのが伝わってきて、まりあはその笑顔をぼんやり見つめてしまう。
「でもご飯食べるって全然罰ゲームじゃないよね?」
坂口は笑顔をほんのすこし淡くして首を傾げた。
「……いや。俺にとってはご褒美ですけど、板野さんからしたら罰ゲームかなって思ったんで」
彼はそう言ってどこか切なげに瞳を細めてまりあを見た。普段はポーカーフェイスのこの人に、こんな表情でこんなふうに言われてしまったら。流石にまりあも平常心が揺らいでしまいそうになる。だからあえて明るい調子で言った。
「罰ゲームな訳ないでしょ。坂口くんと話すの楽しいし。あ、そうだ。ナナちゃんも誘ってみようか?」
頭の片隅にナナのこともあったから努めてさりげない調子で提案してみる。けれど坂口は数秒考えるように遠くを見た後、意を決したようにきっぱり言った。
「いえ。板野さんと俺の二人でお願いします」
まりあはえっと小さく呟いたあと、坂口を見つめてしまう。彼はまりあの答えを待ってじっと見つめてくる。
「だめ、ですか?」
動きを止めてしまったまりあに、ややトーンダウンした声で坂口がたずねてくる。まっすぐな眼差しで見つめてくる彼を見て中途半端に話をそらしてはいけない。まりあは腹を括った。
「ううんダメじゃないよ。いいよ。行こう」
坂口の不安そうな瞳が嬉しそうな色合いを帯びていく。よかったと呟いて照れたように微笑んだ。見慣れている営業スマイルとは全然違う、年相応の自然な笑顔。素直に喜んでいるのが伝わってきて、まりあはその笑顔をぼんやり見つめてしまう。