第250話
文字数 678文字
☆
撮影隊が撤収し、常勤しているスタッフも帰宅した事務所には上茶谷一人だけが残っていた。壁にかかっている時計をみると十八時半。まりあからは十九時半までには事務所にいけるという返信を貰ったから、彼女が到着するまでにはまだ時間がある。
上茶谷はマグカップにコーヒーのドリップバッグをセットしてお湯を注ぐ。コポコポとコーヒーが小さく泡立つのを見つめていると、特有の香りが鼻腔をくすぐりはじめ、自然に吐息がこぼれた。最近は忙しさのあまり、仕事中は立ちっぱなしでコーヒーを飲んでいたことに気づく。ちゃんとソファに座って休憩しようと上茶谷が歩き出し時だった。
「大悟」
背後からいきなり声を掛けられて、驚いた拍子に身体が揺れコーヒーが零れそうになった。なんとか零さずにカップを安定させてから振り返ると、上島が立っていた。
「蒼佑? びっくりした。急に声をかけてくるからコーヒーをこぼしそうになったわ」
上茶谷が苦笑しながら文句をいうと、上島は少し疲れたような表情でほほ笑んだ。
「ごめん。鍵があいてたから。コーヒー持ってたんだな」
そう言って上茶谷の前を横切りソファにどさりと腰掛けた。いつもよりどこか覇気がない横顔を上茶谷は静かに見つめる。
「珍しいわね。いきなり事務所 にくるなんて。蒼佑もコーヒー飲む?」
上茶谷も彼の対面にあるソファに座りながらそう問いかけると、上島は小さく首を振った。
「いや、いい。今コーヒーを飲んだら腹が痛くなりそうだ」
上島は一緒に住んでいる時も時々、胃の不調を訴えることがあった。そういう時の彼はたいていオーバーワークな状態だったことを思い出す。
撮影隊が撤収し、常勤しているスタッフも帰宅した事務所には上茶谷一人だけが残っていた。壁にかかっている時計をみると十八時半。まりあからは十九時半までには事務所にいけるという返信を貰ったから、彼女が到着するまでにはまだ時間がある。
上茶谷はマグカップにコーヒーのドリップバッグをセットしてお湯を注ぐ。コポコポとコーヒーが小さく泡立つのを見つめていると、特有の香りが鼻腔をくすぐりはじめ、自然に吐息がこぼれた。最近は忙しさのあまり、仕事中は立ちっぱなしでコーヒーを飲んでいたことに気づく。ちゃんとソファに座って休憩しようと上茶谷が歩き出し時だった。
「大悟」
背後からいきなり声を掛けられて、驚いた拍子に身体が揺れコーヒーが零れそうになった。なんとか零さずにカップを安定させてから振り返ると、上島が立っていた。
「蒼佑? びっくりした。急に声をかけてくるからコーヒーをこぼしそうになったわ」
上茶谷が苦笑しながら文句をいうと、上島は少し疲れたような表情でほほ笑んだ。
「ごめん。鍵があいてたから。コーヒー持ってたんだな」
そう言って上茶谷の前を横切りソファにどさりと腰掛けた。いつもよりどこか覇気がない横顔を上茶谷は静かに見つめる。
「珍しいわね。いきなり
上茶谷も彼の対面にあるソファに座りながらそう問いかけると、上島は小さく首を振った。
「いや、いい。今コーヒーを飲んだら腹が痛くなりそうだ」
上島は一緒に住んでいる時も時々、胃の不調を訴えることがあった。そういう時の彼はたいていオーバーワークな状態だったことを思い出す。