第87話
文字数 763文字
とにかく普段どおりに振る舞おうと、まりあは、さり気ない調子で話し出す。
「帰ってくるの夕方って予定表にあったのに。早かったんだね」
「三軒目にまわろうと思っていた代理店からキャンセルの連絡が入ったんで」
それから坂口がちょっと唇を引き結んでまりあを見た。
「俺が予定外に早く帰ってきたら……都合悪かったりしましたか?」
どこか寂しげに細められた瞳にまりあの心臓がことりと音をたてる。坂口はそんな表情は以前はみせなかった。もしかしたらまりあは見てみていても気づいていなかったのかもしれない。そう思ったらなんだか落ち着かなくなってしまう。
「ま、まさか。そんなことないに決まってる……」
じっと見つめられているその視線に耐えきれず、まりあは下を向いてしまう。坂口も黙ってしまったから、気まずい沈黙がまた二人の上にぽとりと落ちて広がった。数秒なのか数分なのか。止まっていた空気を動かしたのも、やはり坂口だった。
「ナゾの答え……」
核心に触れる言葉 。それでいきなり沈黙を破ってきた坂口にまりあはびっくりして反射的に顔をあげてしまった。かちりと視線があう。
「やっとこっちを見てくれましたね」
坂口は静かに微笑んだ。まりあといえばやっぱりなんていっていいかわからない。困ったように見つめ返すと坂口が頷いた。
「わかりました」
「え? なにが?」
何かを決意した瞳の坂口にまりあは思わず問いかけてしまう。
「板野さんはナゾの答えを言わなくていいです。特別に罰もなしにしときます」
「……あ、そうなの? ありがと」
ここで御礼をいうのもおかしいと思いつつホっとしてついそう言ってしまう。まりあの安心したような顔をみて坂口はせつなげに瞳を細めた。
「そのかわり……」
坂口がいったんそこで息をついて呼吸を整えるとまっすぐまりあを見つめた。
「俺が答えを言います」
「帰ってくるの夕方って予定表にあったのに。早かったんだね」
「三軒目にまわろうと思っていた代理店からキャンセルの連絡が入ったんで」
それから坂口がちょっと唇を引き結んでまりあを見た。
「俺が予定外に早く帰ってきたら……都合悪かったりしましたか?」
どこか寂しげに細められた瞳にまりあの心臓がことりと音をたてる。坂口はそんな表情は以前はみせなかった。もしかしたらまりあは見てみていても気づいていなかったのかもしれない。そう思ったらなんだか落ち着かなくなってしまう。
「ま、まさか。そんなことないに決まってる……」
じっと見つめられているその視線に耐えきれず、まりあは下を向いてしまう。坂口も黙ってしまったから、気まずい沈黙がまた二人の上にぽとりと落ちて広がった。数秒なのか数分なのか。止まっていた空気を動かしたのも、やはり坂口だった。
「ナゾの答え……」
核心に触れる
「やっとこっちを見てくれましたね」
坂口は静かに微笑んだ。まりあといえばやっぱりなんていっていいかわからない。困ったように見つめ返すと坂口が頷いた。
「わかりました」
「え? なにが?」
何かを決意した瞳の坂口にまりあは思わず問いかけてしまう。
「板野さんはナゾの答えを言わなくていいです。特別に罰もなしにしときます」
「……あ、そうなの? ありがと」
ここで御礼をいうのもおかしいと思いつつホっとしてついそう言ってしまう。まりあの安心したような顔をみて坂口はせつなげに瞳を細めた。
「そのかわり……」
坂口がいったんそこで息をついて呼吸を整えるとまっすぐまりあを見つめた。
「俺が答えを言います」