第２６９話

「へえええ。そうだったんですかー－。めちゃくちゃびっくりしましたー－！」

　ナナがお店の中にも関わらず大きな声で叫んだから、目の前に座っているまりあが慌ててしいっと人差し指を口にあてる。ナナは小さく舌をだしてすいませーんといって笑った。

　豊洲に住居を移したというまりあとほぼ同時に、坂口も豊洲に引っ越したと聞いたナナは二人が同棲しているとばかり思っていた。まりあに何度聞いても曖昧なことしか言わない。彼女の年齢を考えたらすぐ結婚もありえるから、すべてが決まってから教えてくれるつもりなのだろうと勝手に思いこんでいた。

　それが蓋をあけてみたら坂口ともう一人男性の存在があり、その三人で共同生活をしていたという驚愕の事実が判明。さらにナナを驚かせたのは今は三人での共同生活を解消し、坂口ではないその男性とまりあの二人で住んでいるということだ。

　たまたま朝早く来た更衣室でまりあからその話を打ち明けられて。アイライナーとマスカラで綺麗に縁取られた大きな瞳がもうひとまわり大きくなってしまうくらいにナナは驚いてしまった。立ち話で済む話ではないでしょうと、仕事終わりに飲む約束を強引に取り付け、オトナ女子にも人気がある洋風居酒屋にまりあと二人で来ていた。テーブルの上にはビールのグラスとこんもりとオシャレに盛られたシーフードサラダが置いてあるが、ほとんど手をつけられていない。

「で？！　その相手の人ですけどどんな人なんですかー？　やっぱりあの金髪のヒトですかー？」

　仕事をしながらまりあの相手というのは誰だろうとナナはずっと考えていた。一度まりあと一緒にいるところを見たガタイのいい金髪男が怪しい。ナナは早速そこから攻めてみたものの、まりあはとても困ったような顔をして言った。

「えーとえーと。チガイマス」