第74話
文字数 728文字
「カミちゃん、恋人 でもできた?」
ラリュールのオーナーであるリカコに、久しぶりに彼女専用の個室に呼ばれた。一体どんな話かと身構えていた上茶谷は開口一番そう聞かれ困惑しながら対面に座る彼女をみた。一瞬の沈黙のあとリカコが楽しそうに笑ったので、大きなため息をつく。
「……リカコさん、私をからかうためにわざわざ呼び出したんですか?」
襟足を短くかりあげたボブヘアを揺らし、彼女が首を振った。
「あら違った?」
リカコがどこかいたずらっぽい瞳をして上茶谷をみてくる。彼女は昔から上茶谷が気付いていないことを指摘してくることがある。なにか顔にでていたのかと苦笑しながら頬に手を当てた。
恋人 と言われて反射的に思い浮かんだのは、なぜか目をぱちぱちしながら見あげてくる小さな隣人だった。先日上茶谷の部屋に泊まったまりあは会社に行かなきゃと何度もいいながら、遅い朝食を一緒に食べ午後から出社していった。会社なんて休めばいいじゃない。そういうと困ったようで、そのくせ嬉しそうな顔で上茶谷を見てくるのが可愛いらしくて面白くて。ついつい引き止めてしまった。実際まりあが出かけてしまったら、いつもの静かで落ち着くはずの部屋が物足りなくさえ感じた。
上茶谷は基本的にパーソナルエリアを無視してズカズカ入り込んでくる、無神経な人間は大嫌いだ。けれどまりあがいつの間にかちょっこりした佇まいでそこに居ても嫌じゃない。パーソナルエリアどころか距離としてはゼロセンチ、まりあを自ら抱きしめて寝ていた。しかも心身ともに近年ないくらいにリラックスして。
寝付きが悪く、調子が悪いときは睡眠導入薬を飲まないと眠れない上茶谷が、恋人でもない、しかも女と一緒に寝て熟睡できるなんてあり得ないことだった。
ラリュールのオーナーであるリカコに、久しぶりに彼女専用の個室に呼ばれた。一体どんな話かと身構えていた上茶谷は開口一番そう聞かれ困惑しながら対面に座る彼女をみた。一瞬の沈黙のあとリカコが楽しそうに笑ったので、大きなため息をつく。
「……リカコさん、私をからかうためにわざわざ呼び出したんですか?」
襟足を短くかりあげたボブヘアを揺らし、彼女が首を振った。
「あら違った?」
リカコがどこかいたずらっぽい瞳をして上茶谷をみてくる。彼女は昔から上茶谷が気付いていないことを指摘してくることがある。なにか顔にでていたのかと苦笑しながら頬に手を当てた。
上茶谷は基本的にパーソナルエリアを無視してズカズカ入り込んでくる、無神経な人間は大嫌いだ。けれどまりあがいつの間にかちょっこりした佇まいでそこに居ても嫌じゃない。パーソナルエリアどころか距離としてはゼロセンチ、まりあを自ら抱きしめて寝ていた。しかも心身ともに近年ないくらいにリラックスして。
寝付きが悪く、調子が悪いときは睡眠導入薬を飲まないと眠れない上茶谷が、恋人でもない、しかも女と一緒に寝て熟睡できるなんてあり得ないことだった。