第142話
文字数 817文字
上茶谷は一つ吐息を漏らす。
「……そう言えば、蒼佑に聞いてなかったわね。どういう経緯 で結婚したのかも」
以前ならこんなことを聞きたいとも思わなかっただろう。上島は吐息をひとつ吐くと過去をおもいだすようにゆっくりと語りだした。
「陽菜 って言うんだ。元嫁ね。最初は桐谷の親父さんに引き合わされたんだけど、その場で俺をみて一目惚れしたからつきあってみようよって親父のまえでも平気で言うんだよ。びっくりしたな。帰国子女のせいか物怖じしないところがあったな」
上島は瞳を細めて、記憶を辿るような表情をみせて言う。
「相変わらず、モテてるのね」
上茶谷が口元を微かに緩めてからかうと上島は笑う。
「まあね。俺、どっちかっていうと男より女のほうにモテるんだよ」
「たまには形だけでも謙遜くらいしなさいよ」
呆れ顔の上茶谷に、だって本当のことだし、と上島はしれっと言って笑う。
「そのあと二人で飲みに行ってさ。最初は付き合うって話、断ったんだ。俺は……女の子とも付き合うけれど男とのほうが多いって話してね。でも……それなら友だちからでいいって言われて。時々会って話をしてみたら桐谷の親父さんの娘っていうことを抜きにしても楽しかった。親父さんに似て、頭の回転も早くて話題も尽きなかったし。性格もさっぱりしてたしね」
彼女にバイセクシャルだと告白はしても、男の恋人がいるとはあえて言わなかったのだろう。それが上島らしいズルさだと思うものの、上茶谷は口を挟まず静かに話を聞く。
「あの頃、会社の資金もショートしていたし、桐谷の親父さんの娘っていう看板にも惹かれたのは否めない。でもどんな理由にせよ人生で一番惚れてた恋人と別れるって決意をしたんだから、陽菜と幸せになろうと本気で考えて結婚した。そうじゃなきゃだめだって思ったんだ」
上島は後ろめたいだろうことも目を逸らさず淡々と話す。聞いている上茶谷もあれ程苦しかった当時のことを、遠くから眺めているような気分になる。
「……そう言えば、蒼佑に聞いてなかったわね。どういう
以前ならこんなことを聞きたいとも思わなかっただろう。上島は吐息をひとつ吐くと過去をおもいだすようにゆっくりと語りだした。
「
上島は瞳を細めて、記憶を辿るような表情をみせて言う。
「相変わらず、モテてるのね」
上茶谷が口元を微かに緩めてからかうと上島は笑う。
「まあね。俺、どっちかっていうと男より女のほうにモテるんだよ」
「たまには形だけでも謙遜くらいしなさいよ」
呆れ顔の上茶谷に、だって本当のことだし、と上島はしれっと言って笑う。
「そのあと二人で飲みに行ってさ。最初は付き合うって話、断ったんだ。俺は……女の子とも付き合うけれど男とのほうが多いって話してね。でも……それなら友だちからでいいって言われて。時々会って話をしてみたら桐谷の親父さんの娘っていうことを抜きにしても楽しかった。親父さんに似て、頭の回転も早くて話題も尽きなかったし。性格もさっぱりしてたしね」
彼女にバイセクシャルだと告白はしても、男の恋人がいるとはあえて言わなかったのだろう。それが上島らしいズルさだと思うものの、上茶谷は口を挟まず静かに話を聞く。
「あの頃、会社の資金もショートしていたし、桐谷の親父さんの娘っていう看板にも惹かれたのは否めない。でもどんな理由にせよ人生で一番惚れてた恋人と別れるって決意をしたんだから、陽菜と幸せになろうと本気で考えて結婚した。そうじゃなきゃだめだって思ったんだ」
上島は後ろめたいだろうことも目を逸らさず淡々と話す。聞いている上茶谷もあれ程苦しかった当時のことを、遠くから眺めているような気分になる。