第155話
文字数 663文字
「つまりそういうことです。坂口さんはよほどのことがない限り、物事を諦めたりしません。ましてや板野さんのことだったら猶更です。だから板野さんがそんな中途半端なことをいっていたら、坂口さんは絶対、指を加えてぼおっと見ているはずがない。それはずるいですっていいたかったんですー」
「ナナちゃん……」
ナナはペロリと舌を出して苦笑する。
「と、いうことで。これ以上ここにいると余計な毒舌吐いてしまいそうだから、これからパンを買ってきまーす。板野さんはゆっくり食べていてくださーい」
ナナはすっくりと立ち上がりそのままスタスタと歩いていってしまった。ぼおっとその後ろ姿をまりは見送りながら、大きなため息をついた。ナナは一生懸命明るくしようとしている気配があった。彼女のことを考えても坂口にちゃんと今の気持ちを言わなければ、とまりあは思う。今日は仕事のあと、坂口に夕ご飯を奢る約束をした日だ。上茶谷とのことをちゃんと話そうとは心に決めていた。
(でも、やっぱり中途半端な関係……に見えちゃうのかな)
さきほどナナに言われた言葉がまだ、胸の奥で響いている。そうはおもいたくなったけれど、上茶谷とまりあの関係をぴたりと形容する言葉は見つからない。言葉を尽くしてもうまく表現できない気がしていた。あの優しい空気や安心感は言葉にしてしまうと、曖昧になって頼りないものになってしまう。理解してもらうのは難しいかもしれない。それでも話さないという不誠実な選択はない。
思わず天を仰ぐ。いくつもの雲がぽっかり浮かんでいる初夏の空の眩しさにまりあは目を細めた。
「ナナちゃん……」
ナナはペロリと舌を出して苦笑する。
「と、いうことで。これ以上ここにいると余計な毒舌吐いてしまいそうだから、これからパンを買ってきまーす。板野さんはゆっくり食べていてくださーい」
ナナはすっくりと立ち上がりそのままスタスタと歩いていってしまった。ぼおっとその後ろ姿をまりは見送りながら、大きなため息をついた。ナナは一生懸命明るくしようとしている気配があった。彼女のことを考えても坂口にちゃんと今の気持ちを言わなければ、とまりあは思う。今日は仕事のあと、坂口に夕ご飯を奢る約束をした日だ。上茶谷とのことをちゃんと話そうとは心に決めていた。
(でも、やっぱり中途半端な関係……に見えちゃうのかな)
さきほどナナに言われた言葉がまだ、胸の奥で響いている。そうはおもいたくなったけれど、上茶谷とまりあの関係をぴたりと形容する言葉は見つからない。言葉を尽くしてもうまく表現できない気がしていた。あの優しい空気や安心感は言葉にしてしまうと、曖昧になって頼りないものになってしまう。理解してもらうのは難しいかもしれない。それでも話さないという不誠実な選択はない。
思わず天を仰ぐ。いくつもの雲がぽっかり浮かんでいる初夏の空の眩しさにまりあは目を細めた。