第246話
文字数 716文字
「手、離そう?」
穏やかな口調でまりあがそういうと、坂口はじいっと彼女を見つめたあと小さく呟いた。
「会社の人にみつかるとまずいからですか?」
坂口の問いかけにまりあは首をふる。そのまま目をそらさず見つめ返すと坂口はふうと吐息をついた。
「会社の手前まででも、ダメですか?」
子犬みたいな目をしてそんなふうに言われてしまうと言葉に詰まってしまう。基本彼はこんな表情をみせない。一緒に暮らしているプライベートな場でももちろん、職場でもポーカーフェイスだからまりあは一瞬たじろいでしまう。けれどその動揺を押さえこむ。
「うん、ダメ」
あえて明るい調子で言って首を振って微笑む。坂口は眩しそうに目を細めてまりあを見つめたあと、ゆっくりと手を離した。
「そうですね。手をつないで会社にいったら、おかしいですよね。幼稚園児じゃないんだし」
幼稚園児という言葉にまりあが思わずふきだしてしまうと、坂口も一緒に笑ったから場がなんとなく和んだ。職場のフロアに戻るまでいつも通り話をしながら歩く。坂口の表情は普段と変わらなかったけれど、ふたりの間にある空気は微妙に変化したのをまりあは肌で感じた。多分今、変わらなくてはいけない時なのだ。
席に座って壁にかかっている時計をみる。昼休み終了まであと一分。スマホをだして数秒ほど画面を見つめてからタップし、メッセージを素早く入力する。
(ダイゴさん、今日外で夕食を一緒にたべませんか?)
一行だけのシンプルな文面。躊躇したりする前に思い切って送信ボタンを押してしまう。それからすぐにスマホをポケットにしまった。しばらくスマホは見ないで仕事に集中しよう。そう決めたら肩の力が抜ける。まりあはふうとひとつ、吐息をついた。
穏やかな口調でまりあがそういうと、坂口はじいっと彼女を見つめたあと小さく呟いた。
「会社の人にみつかるとまずいからですか?」
坂口の問いかけにまりあは首をふる。そのまま目をそらさず見つめ返すと坂口はふうと吐息をついた。
「会社の手前まででも、ダメですか?」
子犬みたいな目をしてそんなふうに言われてしまうと言葉に詰まってしまう。基本彼はこんな表情をみせない。一緒に暮らしているプライベートな場でももちろん、職場でもポーカーフェイスだからまりあは一瞬たじろいでしまう。けれどその動揺を押さえこむ。
「うん、ダメ」
あえて明るい調子で言って首を振って微笑む。坂口は眩しそうに目を細めてまりあを見つめたあと、ゆっくりと手を離した。
「そうですね。手をつないで会社にいったら、おかしいですよね。幼稚園児じゃないんだし」
幼稚園児という言葉にまりあが思わずふきだしてしまうと、坂口も一緒に笑ったから場がなんとなく和んだ。職場のフロアに戻るまでいつも通り話をしながら歩く。坂口の表情は普段と変わらなかったけれど、ふたりの間にある空気は微妙に変化したのをまりあは肌で感じた。多分今、変わらなくてはいけない時なのだ。
席に座って壁にかかっている時計をみる。昼休み終了まであと一分。スマホをだして数秒ほど画面を見つめてからタップし、メッセージを素早く入力する。
(ダイゴさん、今日外で夕食を一緒にたべませんか?)
一行だけのシンプルな文面。躊躇したりする前に思い切って送信ボタンを押してしまう。それからすぐにスマホをポケットにしまった。しばらくスマホは見ないで仕事に集中しよう。そう決めたら肩の力が抜ける。まりあはふうとひとつ、吐息をついた。