第145話
文字数 688文字
ふたりの間に沈黙が落ちる。先に口を開いたのは上茶谷だった。
「……私はあの子と結婚したいなんて思ってないわよ」
上茶谷のクールな口調にもまったく動じる様子もなく上島は首を振った。
「大悟もわかっているんだろ?」
「なにが?」
微かに苛ついた上茶谷をいたわるように上島は静かに答える。
「お前はまりあちゃんを手離したくないんだ。ずっと傍に置きたいと思ってる。結婚という形じゃなくてもね。……でも大悟は俺と同じだ。彼女のことがいくら好きでも、心も体も女性をまるごと愛することはできない種類の人間なんだよ」
上茶谷は、すぐには反論する言葉がでてこない。まりあと添寝したときどこかで感じていたことを上島は言い当てていたからだ。
上茶谷を見つめる彼女の瞳は熱を帯びて揺れていた。かつて付き合った女性からそんな瞳を向けられた時は鬱陶しさを感じて逃げ出したくなった。けれどまりあの瞳をみた時は違った。彼女の求めるものを差し出したい。そう思うのに踏み込めない自身へのもどかしさ、苦しさがこみあげてきた。そうしてまりあにたずねずにはいられなかった。
『セックスはしない。……それは、どんな関係?』
上茶谷は軽く首を振る。今感情にまかせて口を開いたら上島に八つ当たりしてしまうだろう。けれど感情を爆発させても、後悔しか生み出さないことを、茶谷は嫌という程知っていた。大きく吐息をつく。とりあえず頭を冷やしたかった。
「言いたいことはそれだけ?」
上茶谷が静かにそういって、無表情で上島を見つめると、彼は瞳を見開いた。
「仕事の話をしないなら私、そろそろ帰るわ」
立ち上がった上茶谷の手首を、上島が慌てて掴む。
「……私はあの子と結婚したいなんて思ってないわよ」
上茶谷のクールな口調にもまったく動じる様子もなく上島は首を振った。
「大悟もわかっているんだろ?」
「なにが?」
微かに苛ついた上茶谷をいたわるように上島は静かに答える。
「お前はまりあちゃんを手離したくないんだ。ずっと傍に置きたいと思ってる。結婚という形じゃなくてもね。……でも大悟は俺と同じだ。彼女のことがいくら好きでも、心も体も女性をまるごと愛することはできない種類の人間なんだよ」
上茶谷は、すぐには反論する言葉がでてこない。まりあと添寝したときどこかで感じていたことを上島は言い当てていたからだ。
上茶谷を見つめる彼女の瞳は熱を帯びて揺れていた。かつて付き合った女性からそんな瞳を向けられた時は鬱陶しさを感じて逃げ出したくなった。けれどまりあの瞳をみた時は違った。彼女の求めるものを差し出したい。そう思うのに踏み込めない自身へのもどかしさ、苦しさがこみあげてきた。そうしてまりあにたずねずにはいられなかった。
『セックスはしない。……それは、どんな関係?』
上茶谷は軽く首を振る。今感情にまかせて口を開いたら上島に八つ当たりしてしまうだろう。けれど感情を爆発させても、後悔しか生み出さないことを、茶谷は嫌という程知っていた。大きく吐息をつく。とりあえず頭を冷やしたかった。
「言いたいことはそれだけ?」
上茶谷が静かにそういって、無表情で上島を見つめると、彼は瞳を見開いた。
「仕事の話をしないなら私、そろそろ帰るわ」
立ち上がった上茶谷の手首を、上島が慌てて掴む。