第200話
文字数 760文字
「まりあちゃんが打算的なコなら話が早かったんだけど。残念ながらそういうところがまるで無いよね。食いついたのは俺じゃなくて飯のほうだったし」
そう言って上島は苦笑する。
「どうしてハニトラなんて……」
まりあが事の次第をよく飲み込めないまま呟くと、上島はナイフのように冷たく尖った笑みを浮かべて微笑んだ。
「俺の肩書とかさ。そんなものに簡単に釣られてハニトラにひっかかる程度の女なら、大悟の視界から消してやろうかと思ってね」
まりあの背中に冷たいものが走り僅かな酔いも一気に醒めた気がした。上島は笑っているが本気で言っている。まりあにははっきりわかった。上島が名刺をまりあの部屋に差し込んだところからハニートラップは始まっていたのだ。実際そうして食いついてくる人間を、彼は山程みてきたのだろう。
初めて会った時から上島に抱いていた“一筋縄ではいかない男”という印象が、パズルのピースのようにピタリとハマった感覚だった。そんな男があっさり手の内を明かしたのにも理由があるに違いない。運ばれてきた活平目の刺身盛り合わせと桜えびと夏野菜のかき揚げを、まりあは黙ってもぐもぐと食べる。新鮮な刺し身の食感、パリパリとしたかき揚げの歯ごたえにすこし心が和む。
まりあの母親も心配ごとや厄介事が起きたときに、黙々としっかり食事をしていたことを思い出す。食べることで心も落ち着いてくる。咀嚼しながらまりあは小さく頷く。食べ終えて箸をおき、腹に力をこめて顔をあげる。
「良かったです。消されないみたいで」
震えそうな声を抑えてそう言う。上島のような社会的影響力のある男に消す、などと物騒なことを言われたらやっぱり少し怖い。そんな気持ちはぐっと腹の奥に押しこめてまっすぐ彼を見つめる。まりあを観察するようにじっと見ていた上島が小さな笑みをこぼした。
そう言って上島は苦笑する。
「どうしてハニトラなんて……」
まりあが事の次第をよく飲み込めないまま呟くと、上島はナイフのように冷たく尖った笑みを浮かべて微笑んだ。
「俺の肩書とかさ。そんなものに簡単に釣られてハニトラにひっかかる程度の女なら、大悟の視界から消してやろうかと思ってね」
まりあの背中に冷たいものが走り僅かな酔いも一気に醒めた気がした。上島は笑っているが本気で言っている。まりあにははっきりわかった。上島が名刺をまりあの部屋に差し込んだところからハニートラップは始まっていたのだ。実際そうして食いついてくる人間を、彼は山程みてきたのだろう。
初めて会った時から上島に抱いていた“一筋縄ではいかない男”という印象が、パズルのピースのようにピタリとハマった感覚だった。そんな男があっさり手の内を明かしたのにも理由があるに違いない。運ばれてきた活平目の刺身盛り合わせと桜えびと夏野菜のかき揚げを、まりあは黙ってもぐもぐと食べる。新鮮な刺し身の食感、パリパリとしたかき揚げの歯ごたえにすこし心が和む。
まりあの母親も心配ごとや厄介事が起きたときに、黙々としっかり食事をしていたことを思い出す。食べることで心も落ち着いてくる。咀嚼しながらまりあは小さく頷く。食べ終えて箸をおき、腹に力をこめて顔をあげる。
「良かったです。消されないみたいで」
震えそうな声を抑えてそう言う。上島のような社会的影響力のある男に消す、などと物騒なことを言われたらやっぱり少し怖い。そんな気持ちはぐっと腹の奥に押しこめてまっすぐ彼を見つめる。まりあを観察するようにじっと見ていた上島が小さな笑みをこぼした。