第38話
文字数 785文字
上茶谷は美容師を十五年以上やってきたから、どんな人とでも会話をしようと思えばできる。勿論、話をしたくなさそうな客の空気も察して、あまり話しかけない配慮もわきまえているつもりだ。ただまりあとのこの空気はどんな配慮も要らないと感じた。まりあも腹がすいているのか、上茶谷が居ることを忘れたように一心に食べている。彼もうどんを食べて味わうことだけに集中する。
出汁がしっかりでていて、まりあが自慢するのもわかる美味しさだ。醤油の味がやや濃いような気がするけれど、これはこれで悪くない。上茶谷の祖母が関西出身だから薄味に慣れてしまい、どこで食べても濃いと感じてしまうのだ。でもこれも優しい家庭の味だ。
半熟卵とネギのバランスが好きだと思う。柔らかくて甘い。うどんもツルツルしてコシがあっていい。海老天の海老はかなり小さくなってしまったけれど、衣がカラッとしているところと汁に溶けているところが二度美味しい。合間に漬物を食べる。柚子の香りと白菜の歯ごたえがいい感じだ。そういえば何故この季節に柚子があるんだろうと考える。実家の庭にあった柚は秋くらいに実をつけていた気がする。そんなことを考えながら食べていた上茶谷よりもまりあのほうが圧倒的に早く食べ終わった。
「ああ、おいしかった!」
両手を合わせてごちそうさまと言ったまりあと空っぽのどんぶりを見て、上茶谷は目を丸くした。
「ちょっと。あなた食べるの早すぎるわよ。ちゃんと噛んでるの? わんこそばじゃないんだから」
まりあは全く意に介す様子もなくペロリと舌を出した。
「だって。お腹めちゃくちゃ空いてたんですもん。あ、ダイゴさんのお口に合います?」
思い出したようにそう聞かれて、上茶谷は苦笑しながら首を縦に振った。しつこく構ってこない感じが楽でいい。
「とっても美味しいわよ。だから味わって食べてるの」
上茶谷は心からそう思い答える。
出汁がしっかりでていて、まりあが自慢するのもわかる美味しさだ。醤油の味がやや濃いような気がするけれど、これはこれで悪くない。上茶谷の祖母が関西出身だから薄味に慣れてしまい、どこで食べても濃いと感じてしまうのだ。でもこれも優しい家庭の味だ。
半熟卵とネギのバランスが好きだと思う。柔らかくて甘い。うどんもツルツルしてコシがあっていい。海老天の海老はかなり小さくなってしまったけれど、衣がカラッとしているところと汁に溶けているところが二度美味しい。合間に漬物を食べる。柚子の香りと白菜の歯ごたえがいい感じだ。そういえば何故この季節に柚子があるんだろうと考える。実家の庭にあった柚は秋くらいに実をつけていた気がする。そんなことを考えながら食べていた上茶谷よりもまりあのほうが圧倒的に早く食べ終わった。
「ああ、おいしかった!」
両手を合わせてごちそうさまと言ったまりあと空っぽのどんぶりを見て、上茶谷は目を丸くした。
「ちょっと。あなた食べるの早すぎるわよ。ちゃんと噛んでるの? わんこそばじゃないんだから」
まりあは全く意に介す様子もなくペロリと舌を出した。
「だって。お腹めちゃくちゃ空いてたんですもん。あ、ダイゴさんのお口に合います?」
思い出したようにそう聞かれて、上茶谷は苦笑しながら首を縦に振った。しつこく構ってこない感じが楽でいい。
「とっても美味しいわよ。だから味わって食べてるの」
上茶谷は心からそう思い答える。