第95話
文字数 710文字
「本当に俺が心から欲しいと思うもの」
「……なにそれ」
上茶谷は敢えてぶっきらぼうに聞き返す。上島は少し間を置いたあとゆっくり口を開いた
「どうやっても惹かれてしまう。それでいて一緒にいると心が落ち着く。そんな人間と一緒に同じ方向を見て、生きていくことなんだって」
上茶谷は言葉が出てこない。上島はそのまま話を続ける。
「俺が好き勝手やってる間、静かに見守ってくれている人が隣にいる幸せに気づかなかった。……だから今度は俺が、その人が打ち込んでいることを共有 したい。理解したい。苦しいことがあっても支えあっていきたい」
「蒼佑……」
上島は静かに微笑んだ。
「そう思える人間にはなかなかめぐりあえるものじゃないってのもよくわかった。結婚までした嫁さんでもなかったし、男女問わずいろんな人間が近付いてきたけれど、そんな人はいなかった」
上島はそこまで話すと、大きな吐息をついてゆっくりと呟いた。
「こういう感情は誰に対しても感じるわけじゃない。……お前だから、大悟だから感じるんだって」
また沈黙が落ちた。上島の言葉は上茶谷の心をひどく動揺させていた。対向車線の車の流れをしばらく見つめる。規則的な動きをみていたら鼓動が落ち着きを取り戻し始めていく。今度は冷静に話そうと上茶谷はゆっくり息を吸い込んだ。
「蒼佑が経営者として優秀で成功したことは認めるし、あなたが言っていることも理解はできる。でもね……」
そこでいったん言葉を切ってから、胸にある気持ちを切り取って押し出すように続ける。
「その成功のために切り捨てられた私が、また蒼佑と一緒にいたいと思う?」
上茶谷の静かな口ぶりは、池に投げ込まれた小石が波紋を広げるように車内に響いた。
「……なにそれ」
上茶谷は敢えてぶっきらぼうに聞き返す。上島は少し間を置いたあとゆっくり口を開いた
「どうやっても惹かれてしまう。それでいて一緒にいると心が落ち着く。そんな人間と一緒に同じ方向を見て、生きていくことなんだって」
上茶谷は言葉が出てこない。上島はそのまま話を続ける。
「俺が好き勝手やってる間、静かに見守ってくれている人が隣にいる幸せに気づかなかった。……だから今度は俺が、その人が打ち込んでいることを
「蒼佑……」
上島は静かに微笑んだ。
「そう思える人間にはなかなかめぐりあえるものじゃないってのもよくわかった。結婚までした嫁さんでもなかったし、男女問わずいろんな人間が近付いてきたけれど、そんな人はいなかった」
上島はそこまで話すと、大きな吐息をついてゆっくりと呟いた。
「こういう感情は誰に対しても感じるわけじゃない。……お前だから、大悟だから感じるんだって」
また沈黙が落ちた。上島の言葉は上茶谷の心をひどく動揺させていた。対向車線の車の流れをしばらく見つめる。規則的な動きをみていたら鼓動が落ち着きを取り戻し始めていく。今度は冷静に話そうと上茶谷はゆっくり息を吸い込んだ。
「蒼佑が経営者として優秀で成功したことは認めるし、あなたが言っていることも理解はできる。でもね……」
そこでいったん言葉を切ってから、胸にある気持ちを切り取って押し出すように続ける。
「その成功のために切り捨てられた私が、また蒼佑と一緒にいたいと思う?」
上茶谷の静かな口ぶりは、池に投げ込まれた小石が波紋を広げるように車内に響いた。