第196話
文字数 737文字
まりあが一人でジタバタしていると外側から上島がドアを開けてくれた。
「お嬢様さま、どうぞ」
執事のようにわざとかしこまって丁寧に頭を下げた上島に、まりあはついふきだしてしまった。
「ありがとうございます。上島さんて面白いですね」
何も考えずに素の状態で言ってしまったその言葉に、上島は片方の眉をあげて甘く微笑んだ。
「惚れてみる?」
まりあは瞳を見開いて彼を見つめる。人も羨む超ハイスペック男である上島にこんな笑顔でからかわれたら。胸がときめいてしまう人間は男女問わず山ほどいるだろう。本人もそれは自覚しているはずだ。けれどまりあの心はぴくりとも動かない。一方で上茶谷とは初めて話をしたその時から、心がふわふわ舞い上がるような高揚感を覚えたことを思い出す。
(やっぱり……ダイゴさんは特別。ダイゴさんだから好きなんだ)
その上茶谷は目の前の男と一緒に、まりあの傍から居なくなる。心にひりひりと染み込んでくるその事実。なんだか涙がでそうになってしまったけれどぐっと堪えて口を開く。
「安心してください。絶対惚れませんから」
思ったままを言ってしまったが、何が安心なのかよくわからない。さらにいえば上島の軽い冗談に、さりげなく失礼な返しをしてしまった気もする。失敗したという気持ちと一緒に、小さな可笑しみもまりあの中にこみあげてきて、涙なんて引っ込んでしまった。つまずいた勢いで弱い気持ちを石ころみたいに蹴飛してしまった感覚だ。
口にだしてしまったものはもう戻らない。開き直って上島をまっすぐ見上げる。そんなまりあを上島もじっと見つめたあとゆっくり口元を緩めた。
「……なるほど。それは残念」
上島は機嫌を損ねるどころか面白がるように微笑んだ。
「出口こっち。ちょっと歩くけどすぐだから」
「お嬢様さま、どうぞ」
執事のようにわざとかしこまって丁寧に頭を下げた上島に、まりあはついふきだしてしまった。
「ありがとうございます。上島さんて面白いですね」
何も考えずに素の状態で言ってしまったその言葉に、上島は片方の眉をあげて甘く微笑んだ。
「惚れてみる?」
まりあは瞳を見開いて彼を見つめる。人も羨む超ハイスペック男である上島にこんな笑顔でからかわれたら。胸がときめいてしまう人間は男女問わず山ほどいるだろう。本人もそれは自覚しているはずだ。けれどまりあの心はぴくりとも動かない。一方で上茶谷とは初めて話をしたその時から、心がふわふわ舞い上がるような高揚感を覚えたことを思い出す。
(やっぱり……ダイゴさんは特別。ダイゴさんだから好きなんだ)
その上茶谷は目の前の男と一緒に、まりあの傍から居なくなる。心にひりひりと染み込んでくるその事実。なんだか涙がでそうになってしまったけれどぐっと堪えて口を開く。
「安心してください。絶対惚れませんから」
思ったままを言ってしまったが、何が安心なのかよくわからない。さらにいえば上島の軽い冗談に、さりげなく失礼な返しをしてしまった気もする。失敗したという気持ちと一緒に、小さな可笑しみもまりあの中にこみあげてきて、涙なんて引っ込んでしまった。つまずいた勢いで弱い気持ちを石ころみたいに蹴飛してしまった感覚だ。
口にだしてしまったものはもう戻らない。開き直って上島をまっすぐ見上げる。そんなまりあを上島もじっと見つめたあとゆっくり口元を緩めた。
「……なるほど。それは残念」
上島は機嫌を損ねるどころか面白がるように微笑んだ。
「出口こっち。ちょっと歩くけどすぐだから」