第113話
文字数 954文字
「カミちゃんがカットモデルを呼んだって聞いたから。それは来なくちゃって思って」
ふふふとリカコが婀娜っぽく微笑むと上茶谷が苦笑する。
「相変わらずですね、そういうとこ」
「あら、面白がってるだけじゃないわよ。もしかしたらまりあちゃんがキーパーソンかもしれないって思ったから」
上茶谷は動きを止めリカコを見たけれど、彼女はフッと口元を緩めて肩を竦めただけだった。
「邪魔してごめんなさい。それじゃまたね、まりあちゃん」
リカコはまりあに小さく手を振ると、高いヒールをものともせず歩いていってしまった。しーん、とした間に、上茶谷のため息が響く。
「……じゃあシャンプーしましょうか」
ぼんやりしていたまりあをシャンプー台まで案内し、今度は上茶谷が髪を流してくれる。タオルが顔に被せられているからお互い顔は見えない。ただ上茶谷の指先から伝わる感触は、やっぱり染み入るように優しい。
「さっきの話の続きだけど」
上茶谷がシャンプーを泡立てているときに、話し始めた。
「あの坂口くんね。まあ、たしかに生意気そうではあるけれど、私からみてもいい男だと思うし」
彼の指先はまりあの髪にひっかかったりしない。滑らかに優しく髪をかき混ぜる。どこまでも気持ちいい。それなのに、目の奥あたりが熱をもち指先がゆっくり冷えていく。
「……なかなかいないんでしょ。あれくらい条件が揃った男。しかもまりあにベタ惚れみたいだし。カレを好きな後輩のナントカちゃん? にもきちんと話をして、付き合ってみたらいいんじゃない?」
彼の言葉が耳に入って意味を理解したとたん涙がひと粒、頬を伝って零れた。まりあは自分でもびっくりしてしまう。 小さく首をふって顔に掛かっているタオルでさりげなく涙を拭いた。それから吐息をついて、いつもどおりに聞こえるように明るく答える。
「……ダイゴさんもやっぱりそう思いますか?」
まりあの言葉に上茶谷の指の動きが一瞬止まる。
「ですよね。坂口くんくらいいい男に口説かれる可能性なんて、もうないかも」
「……そんなことはないだろうけど」
上茶谷が、少し低い声で答えた。
「……たぶんそうなんです。うん」
まりあはそこから言葉を見つけられなくて黙ってしまう。上茶谷もしゃべらなかったから、その後はしばらく水音だけがふたりの間に響いた。
ふふふとリカコが婀娜っぽく微笑むと上茶谷が苦笑する。
「相変わらずですね、そういうとこ」
「あら、面白がってるだけじゃないわよ。もしかしたらまりあちゃんがキーパーソンかもしれないって思ったから」
上茶谷は動きを止めリカコを見たけれど、彼女はフッと口元を緩めて肩を竦めただけだった。
「邪魔してごめんなさい。それじゃまたね、まりあちゃん」
リカコはまりあに小さく手を振ると、高いヒールをものともせず歩いていってしまった。しーん、とした間に、上茶谷のため息が響く。
「……じゃあシャンプーしましょうか」
ぼんやりしていたまりあをシャンプー台まで案内し、今度は上茶谷が髪を流してくれる。タオルが顔に被せられているからお互い顔は見えない。ただ上茶谷の指先から伝わる感触は、やっぱり染み入るように優しい。
「さっきの話の続きだけど」
上茶谷がシャンプーを泡立てているときに、話し始めた。
「あの坂口くんね。まあ、たしかに生意気そうではあるけれど、私からみてもいい男だと思うし」
彼の指先はまりあの髪にひっかかったりしない。滑らかに優しく髪をかき混ぜる。どこまでも気持ちいい。それなのに、目の奥あたりが熱をもち指先がゆっくり冷えていく。
「……なかなかいないんでしょ。あれくらい条件が揃った男。しかもまりあにベタ惚れみたいだし。カレを好きな後輩のナントカちゃん? にもきちんと話をして、付き合ってみたらいいんじゃない?」
彼の言葉が耳に入って意味を理解したとたん涙がひと粒、頬を伝って零れた。まりあは自分でもびっくりしてしまう。 小さく首をふって顔に掛かっているタオルでさりげなく涙を拭いた。それから吐息をついて、いつもどおりに聞こえるように明るく答える。
「……ダイゴさんもやっぱりそう思いますか?」
まりあの言葉に上茶谷の指の動きが一瞬止まる。
「ですよね。坂口くんくらいいい男に口説かれる可能性なんて、もうないかも」
「……そんなことはないだろうけど」
上茶谷が、少し低い声で答えた。
「……たぶんそうなんです。うん」
まりあはそこから言葉を見つけられなくて黙ってしまう。上茶谷もしゃべらなかったから、その後はしばらく水音だけがふたりの間に響いた。