第117話
文字数 686文字
「まりあちゃんが、ヤナセくんに髪を流してもらっている時、私、ちょうど店にきた時で見てたんだけどね。笑顔が下手くそなヤナセくんが珍しく自然に笑っていたでしょ。その様子をみていたカミちゃんの表情がなんだか……いつもと違って見えたんだよね」
じっとみつめてくるリカコにイヤな予感がした上茶谷は、軽く眉を寄せて苦笑する。
「……なにも違いませんよ」
「あら。私には違ってみえたわよ。そうね……」
リカコは楽しげに瞳を細めて、上茶谷に視線をなげかけた。
「少なくてもいつものクールビューティーじゃなかったわよ。オスの顔?」
上茶谷がは? と言って顔をあげると、リカコがからかうように笑った。最近はほとんどこうして何気ない話をする機会が減ってしまったけれど、銀座の美容室で働いていたころは休み時間や仕事が終わった後、くだらない会話をして、二人で笑っていたことを思い出す。
会話の合間に彼女は、アドバイスや遠慮のないツッコミを織り交ぜてくることがよくあった。その短いコメントは、時折上茶谷を混乱させたりしたものの的を得ている事も多かった。だからこそ彼女の言葉は侮れないことを、上茶谷はよくわかっている。それでもあえてこう言葉を返す。
「変なことを言わないでくださいよ」
リカコは変なことじゃないと思うけどなと笑いを収めて、ほんのすこし真面目な顔になる。
「とにかく。カミちゃんはもっと本音だしていいのよ。お店のことも……私はカミちゃんがどんな決断をしても全面的に受け止めるから」
「リカコさん」
「……それから恋愛も。自分を縛らなくていいんじゃないかな。男でも女でも好きなものは好きでいいじゃない」
じっとみつめてくるリカコにイヤな予感がした上茶谷は、軽く眉を寄せて苦笑する。
「……なにも違いませんよ」
「あら。私には違ってみえたわよ。そうね……」
リカコは楽しげに瞳を細めて、上茶谷に視線をなげかけた。
「少なくてもいつものクールビューティーじゃなかったわよ。オスの顔?」
上茶谷がは? と言って顔をあげると、リカコがからかうように笑った。最近はほとんどこうして何気ない話をする機会が減ってしまったけれど、銀座の美容室で働いていたころは休み時間や仕事が終わった後、くだらない会話をして、二人で笑っていたことを思い出す。
会話の合間に彼女は、アドバイスや遠慮のないツッコミを織り交ぜてくることがよくあった。その短いコメントは、時折上茶谷を混乱させたりしたものの的を得ている事も多かった。だからこそ彼女の言葉は侮れないことを、上茶谷はよくわかっている。それでもあえてこう言葉を返す。
「変なことを言わないでくださいよ」
リカコは変なことじゃないと思うけどなと笑いを収めて、ほんのすこし真面目な顔になる。
「とにかく。カミちゃんはもっと本音だしていいのよ。お店のことも……私はカミちゃんがどんな決断をしても全面的に受け止めるから」
「リカコさん」
「……それから恋愛も。自分を縛らなくていいんじゃないかな。男でも女でも好きなものは好きでいいじゃない」