第158話
文字数 731文字
まりががそこまでいったところで、おまたせしましたーと店員の間延びした声がカーテンで仕切られた空間を震わせた。大皿にのせられた、ピザみたいにみえる洋風お好み焼き、サーモンのカルパッチョ、大根おろしがたっぷりのっているサイコロステーキ。それらがとんとんとん、とテーブルに載せられた。店員が去っていくと妙な空気も料理たちと一緒に残ってしまう。まりあはその先が言えなくなって、仕切りなおすように微笑んだ。
「えーと。いっぱいきたね。冷めちゃうから先に食べようか?」
料理をとりわけようと手を伸ばしたところで、不意に手首を掴まれた。
「あの人ですよね。板野さんの好きな人って」
「あの人って……」
瞳を見開いたまりあを坂口が淡々とした表情で見つめる。そのくせ手首をつかむ力は強く、じんわりと彼の熱をまりあに伝えてくる。怖い。久しぶりに感じた男性への負の感情。台風が近づいて来る時のような不穏な感覚が手首を小さく疼かせる。
「板野さんちの隣に住んでるっていうアイツですよ」
「……」
「やっぱり。当たり、ですよね」
「……坂口くん、手、痛い」
まりあが掠れた声で呟くとその表情をみた彼は、はっとしたように手を離した。
「すみません。力、強かったですよね。本当にごめんなさい」
まりあの中で生まれた小さな恐怖を敏感に感じ取ったように坂口は何度も頭を下げた。それからうなだれるようにして黙ってしまう。すっかりしょげてしまった様子の坂口は、飼い主に怒られた大型犬みたいだ。そう思うとまりあのなかにあった不穏な空気は消えていく。数分たっても続くその沈黙に、まりあが耐えきれなくなって口を開いた時だった。
「「あの」」
坂口も急に顔をあげて同時に声を出したから、見つめあったあとふたりで笑ってしまう。
「えーと。いっぱいきたね。冷めちゃうから先に食べようか?」
料理をとりわけようと手を伸ばしたところで、不意に手首を掴まれた。
「あの人ですよね。板野さんの好きな人って」
「あの人って……」
瞳を見開いたまりあを坂口が淡々とした表情で見つめる。そのくせ手首をつかむ力は強く、じんわりと彼の熱をまりあに伝えてくる。怖い。久しぶりに感じた男性への負の感情。台風が近づいて来る時のような不穏な感覚が手首を小さく疼かせる。
「板野さんちの隣に住んでるっていうアイツですよ」
「……」
「やっぱり。当たり、ですよね」
「……坂口くん、手、痛い」
まりあが掠れた声で呟くとその表情をみた彼は、はっとしたように手を離した。
「すみません。力、強かったですよね。本当にごめんなさい」
まりあの中で生まれた小さな恐怖を敏感に感じ取ったように坂口は何度も頭を下げた。それからうなだれるようにして黙ってしまう。すっかりしょげてしまった様子の坂口は、飼い主に怒られた大型犬みたいだ。そう思うとまりあのなかにあった不穏な空気は消えていく。数分たっても続くその沈黙に、まりあが耐えきれなくなって口を開いた時だった。
「「あの」」
坂口も急に顔をあげて同時に声を出したから、見つめあったあとふたりで笑ってしまう。