第１４０話

　上島は笑顔や軽い口調を緩衝材(クッション)にして、自分の意見や意思をまっすぐぶつけてくる。そのタイミングがいつも絶妙で腹も立つが、それが正論だったりするから、彼の言葉に向き合わざるえない。上茶谷は小さくため息をついて笑う。

「ずいぶん大袈裟な言い方ね。何が聞きたいの？」

　上島は姿勢を正す。背筋を伸ばすと体が大きい彼の目線は上茶谷より高い。

「もちろんあの子のこと。あ、もうとぼけるなよ？　隣のちんちくちんなまりあちゃんとのこと」

　念押しするようにそう言ってくる上島に、小さく首を振って答える。

「……まりあに失礼よ。髪型、私が変えたの。一気に垢ぬけて可愛くなったわよ。もうちんちくりんじゃない」

「またそうやって話をそらすし」

　苦笑した上島は机の上にある紙コップにはいったコーヒーをもって、口元に運び一気に口のなかに流し込んだ。

「……蒼佑が言いたいことはだいたい分かってる」

　上茶谷もゆっくりとコーヒーを口に含むと、上島をまっすぐ見た。

「まりあとのことは……正直よくわからないの、自分でも」

　上茶谷はできるだけ率直に答える。誤魔化しても上島にはわかってしまうし、なにより上茶谷も胸のあたりでもやもやしているものを吐き出してしまいたい気持ちもあった。上島は何も言わない。ただほんのすこしだけ目を細めただけ。上茶谷は静かに話を続ける。

「三十も半ばを過ぎて女であるまりあのことが、こんなに気になるって、どうなってるのって自分にツッコミを入れざるえないわね。私自身、説明がつかないの」

　乾いた笑みを浮かべる上茶谷に、上島はもう一度コーヒーを口に含んで苦笑した。