第166話

文字数 551文字

「もし」

 まっすぐ上茶谷を見つめたまま、坂口が言葉を繋ぐ。

「俺とまりあさんが付き合うってことになったら、上茶谷さんどうします?」

 小石が投げられたように上茶谷の心にゆっくりと波紋が広がっていく。けれどその波紋がおさまるまで数秒黙ったあと、息を吐いてから口を開いた。

「どう、と言われてましても。まりあがそれを望むなら。私は何も言うことはありません」

 上茶谷の言葉に、坂口が片方の眉をあげて苦笑いする。

「ずるいな、その言い方」

「ずるいってどういう意味です?」

 あくまで表情は変えずに淡々と問いかける上茶谷に、坂口は答えた。
 
「あなたの存在がまりあさんに大きな影響を与えているのをわかったうえで、しれっとそういっていらっしゃるって意味です」

 さらに上茶谷に口を挟む隙を与えず、畳み掛けるように続ける。

「気のある素振りをしてまりあさんを他の誰かに奪われないにようにしている。それでいてまりあさんはあなたに愛されることはない。違いますか?」

 鏡越しにしばらく睨み合うくらいの勢いで、視線が交差する。 上茶谷の性的志向(セクシャルティ)、まりあに対して持っている感情。それらを彼女の話か上茶谷の印象から推測したうえで、気持ちを逆撫でするような言葉で煽ってきているのだ。冗談ではない。急に現われた男に、そんな事を言われる筋合いはない。
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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