第212話

文字数 633文字

「……どんな賭けなの?」

 上茶谷からの問いに、まりあは思案するような表情をみせてからゆっくり口を開いた。

「わたしがダイゴさんの引越しを阻止できたら、上島さんは個人的にはダイゴさんに関わらない。でももし……わたしがひきとめに失敗したらもうダイゴさんには会うなって」

「は……。なにを言ってるの、あの人」

 二人が上茶谷に隠れて会っていたこと、さらには賭けの対象にされていたなんて正直気分は良くない。けれど怒りとは違う感情がせりあがってきて上茶谷の心を落ち着かなくさせる。上島はおそらく確信している。まりあの気質上、上茶谷に黙っていられないことを見越したうえで賭けを切り出した。それは上島からの痛烈なメッセージだ。それを感じて上茶谷は息をのみこむ。それでも表面上は表情を変えない上茶谷に向かってまりあは話を続けた。

「わたしも最初はそう思ったんです。何言ってるんだこの人、みたいな。だから上島さんに向かってほとんど罵倒する勢いで説教をしちゃったんですけど……。わたしの説教なんて笑われただけであんまり響いてなかったんですけどね」

 まりあはそう言って小さくため息をつく。二人の漫才みたいな会話を容易に想像できてしまい上茶谷の口元に苦笑が浮かぶ。まりあもその笑みに安心したように微笑んだ。

「……でも上島さんの顔をみていたら、上島さんが本当に言いたかったことは賭けとは別にあるんじゃないかって思い始めたんです」

 淡々と自分に言い聞かせるようにそう呟いたまりあに上茶谷は瞳を見開いた。
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登場人物紹介

【主要キャラ】


・板野まりあ(いたのまりあ)31歳 保険会社勤務の会社員 天然系ですこしぼけているけれど、自炊して節約するしっかりモノ。



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