第5話
文字数 800文字
カサカサカサ。普通は聞こえないくらい小さい音のはずだが、部屋の隅から高速移動してきたそのビジュアルによって、勝手に脳内で再生されてしまうおなじみの効果音。
見ていたまりあの息が止まった。というか息をするのも忘れてそれを見つめた。課長の履いている靴に似ている。そんなことをぼんやり考えたのは時間にしたらおそらく数秒。フリーズしていた脳が不意に反応した。
「ぎゃーーーーーーーー!!」
ありったけの声を出してまりあは叫んだ。それから腕が抜けるのではないかと思うくらい、何度も強く振って
「い、いたーーーー!」
痛がるまりあに動じる様子もなく、アニメのロボットがトランスフォームするようにそれはスッと羽を出すと空中に舞った。
「と、飛んだ!!」
あまりの衝撃にまりあはしりもちをついてしまう。しかもこれみよがしに、大枚をはたいて買ってきたあのケーキの上に着地したのだ。
「あーーーー!?」
叫び声が先程よりも幾分低くなった。まりあのなかで恐怖よりも怒りがまさった瞬間だった。
「ふ、ふざけるなあ!」
目にも留まらぬ速さで立ち上がるとフォークを握り締める。クリームに嵌って身動きできなくなっているソイツを、まるでラクロスのシュートのように水平に弾き飛ばした。その勢いで、まりあの肘がエルメスのグラスにあたった。お約束のようにローテーブルの上から、派手な音をたててグラスが転げ落ち、下に敷いていたグリーンの敷物のうえにワインがこぼれる。じわりと赤い染みがひろがっていく。
「ああああっ!」
慌てて台所に行き台ふきんを濡らして敷物をバンバン叩いてみたけれど、完全には落ちない。
それ
の出現は突然だった。しかも安物のビジネスシューズみたいなテカリを纏って登場したその物体は、あろうことか床についていたまりあの手の甲から、腕にはいあがってきて止まった。見ていたまりあの息が止まった。というか息をするのも忘れてそれを見つめた。課長の履いている靴に似ている。そんなことをぼんやり考えたのは時間にしたらおそらく数秒。フリーズしていた脳が不意に反応した。
「ぎゃーーーーーーーー!!」
ありったけの声を出してまりあは叫んだ。それから腕が抜けるのではないかと思うくらい、何度も強く振って
それ
を払おうとした。しかし大きく振りすぎてテーブルに手の甲をぶつけてしまう。「い、いたーーーー!」
痛がるまりあに動じる様子もなく、アニメのロボットがトランスフォームするようにそれはスッと羽を出すと空中に舞った。
「と、飛んだ!!」
あまりの衝撃にまりあはしりもちをついてしまう。しかもこれみよがしに、大枚をはたいて買ってきたあのケーキの上に着地したのだ。
「あーーーー!?」
叫び声が先程よりも幾分低くなった。まりあのなかで恐怖よりも怒りがまさった瞬間だった。
「ふ、ふざけるなあ!」
目にも留まらぬ速さで立ち上がるとフォークを握り締める。クリームに嵌って身動きできなくなっているソイツを、まるでラクロスのシュートのように水平に弾き飛ばした。その勢いで、まりあの肘がエルメスのグラスにあたった。お約束のようにローテーブルの上から、派手な音をたててグラスが転げ落ち、下に敷いていたグリーンの敷物のうえにワインがこぼれる。じわりと赤い染みがひろがっていく。
「ああああっ!」
慌てて台所に行き台ふきんを濡らして敷物をバンバン叩いてみたけれど、完全には落ちない。